「ネタ作りの方法論はないなと思います。これを見て、こう考えたらできる──とか、そういうのはないんです。
面白いセリフを一つ思いつく。そこからですね。駐車場の案内係がいて、『えっなに? 駐車場入りたいの?』『チカチカさせてるの、向こうの信号を左折するんじゃないんだ』なんて言葉がふと思いつくんです。それで非常に投げやりな男だな、と。
で、この男をちょっとずつ膨らませていくわけです。流れがスムーズにいかないのがコツといえばコツなので、小さなトラブルを起こす。向こうとこっちで意見を対立させる。その対立がまた新しい対立を生む──というふうに広げていきます。そういう僕なりの教科書はあるんですが、最初のひと言を思いつく方法論はありません」
日常的な役柄を演じることの多い尾形だが、役作りのための人間観察はしないという。
「舞台では人間観察以上のことをしたいんです。観察したところで、それ以上のものは舞台では反映できない。むしろ落っこっちゃう感じ。舞台の上って相当のボルテージがある空間ですから、普通の人が出てきても視線には耐えられません。
人物を強くしなければ。あれこれ考えず『これ』しかない人物です。のんべんだらりではなく、何かにこだわる、こだわらざるをえなくなった人ですね。
でも、見た目は再現したほうがお客さんと意識の通路が繋がります。見たことがない人が出てくると『これは誰?』となって引いてしまいます。
外見はよく知っている人、けど中身は知らない人。そこのところは今でも格闘しています」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡正樹
※週刊ポスト2019年11月22日号