では、論文の結果は今後、がん研究にどう役立てられていくのか。
「結果から原因を統計的に探る疫学調査には限界があり、がんの発症には様々な複合的な要因がかかわってくるので、これまでの医学的知見とは異なる結果が出ることもあり得ます。それでも医学関係者は、このような新たな疫学調査の結果から、がん発症の原因となる遺伝子変異の特定など、さらなる医学の進歩のために活かしてほしい。そうすれば、新たな検査や予防法の確立に繋がっていくはずです」(室井氏)
患者レベルでも役立てられることはある。今回の研究の責任著者である国立がん研究センター・社会と健康研究センター疫学研究部室長の澤田典絵医師は「まずはがんの家族歴を知り、予防に役立てるべきです」と語る。
「昔は今ほどがん告知も行なわれていなかったので、親ががんだったと対象者が知らされていないことも多かった。まずはがんの家族歴を把握することが重要です。身近な親族には念のため訊ねておきたい。その上で、病院を受診したり検診を受ける際には、関係ないと思わず医師に家族歴を伝えると早期発見につながる可能性がある」
“沈黙の臓器”と呼ばれる肝臓や膵臓のがんなど、自覚症状が見られず、発見された時にはすでに症状が進行しているがんも少なくない。家族歴からどの部位のがんのリスクがあるかを事前に把握できていれば、定期的ながん検診や人間ドックの際にオプション検診を追加するなどのピンポイントの予防策を講じられるだろう。
国立がん研究センター中央病院遺伝子診療部門長の吉田輝彦医師はこう指摘する。