未成年者誘拐容疑で逮捕された栃木県小山市の伊藤仁士容疑者(35歳)。中学校時代のアルバムより(時事通信フォト)

未成年者誘拐容疑で逮捕された栃木県小山市の伊藤仁士容疑者(35歳)。中学校時代のアルバムより(時事通信フォト)

 この懸念は現実になり、容疑者を擁護する意見だけでなく、被害女児を貶めるような意見さえネット上に現れ始めた。確かに女児は、実年齢では利用出来ないからと年齢を偽って登録したSNSを使って被疑者と連絡を取っていた。この点については、監護の義務がある母親は猛省するしかない。それでもだ。この件を以ってしても、容疑者ではなく被害者が悪かった、という風にはなるのは歪んでいるとしか言えない。

 この嫌な主張が目に入った時、思い出されたのは未成年がらみの「援助交際」事件が発生した時の反応だ。なぜか必ず“買った”男性だけが逮捕されることに不満を抱く人たちが出現する。彼らの理屈は、買った側も悪いが、そもそも売る側がいなければ買うこともできないだろう、といった責任転嫁に一貫している。今回の女児不明事件で容疑者ではなく被害者を責める理屈は、援助交際について、搾取されている子供に責任を負わせる卑怯な屁理屈と全く同様のものだろう。

 ここでいま一度、大人として責任の所在がどこにあるのか、改めて考えてみたい。援助交際の例ならば、売る側がいたとしても、未成年を“買え”ばそれは子供を対象にした人身売買に加担したことになり、犯罪であることは明らか。法律で手厚く守られて当然の未成年に対して落ち度を声高に指摘することのほうが非常識で、歪んでいる。百歩譲って「未成年の女に騙された」というような悪意ある事例もあるかもしれない。それでも、まともでない誘いに乗る大人が罰せられるのは当然で、危機を回避できなかった、怪しいとは思いながらも欲望に負けてしまった自分を恨むしかない。

 今後、被疑者の供述で、被害女児に”連れて行ってと言われた”などと出てくれば、こうした歪んだ見解が蔓延することも容易に想像できる。だが、たとえ小学生の女児と「会う約束」を取り付けていたとしても、相手が未熟で、その判断力が成年に比べて劣っていることは理解できたはず。会うまで相手が未成年であることを知らなかったのならば、会った瞬間にやりとりを拒否すべきだったろう。仮に彼女から助けを求められるほどの事情を訴えられたとしても、人様の子息である小学生を勝手に連れ出しては誘拐だと誰でも判断がつく。結局は法を犯してまでも欲求を満たしたいという、被疑者の身勝手なのだ。

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