八犬士は、とにかく出てくるたびに大立ち回りの連続。岩山や洞窟など起伏が激しい舞台装置の上り下りだけでも大変だが、加えて武器も刀やら槍やら、棒、斧を持つ者もいたりしての大暴れである。聞けば、殺陣は初めての佐野勇人は稽古を半年以上続けたという。佐野勇人といえば、映画『ちはやふる-結び-』や『小さな恋のうた』、『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』など学園と女子がらみの作品の印象が強いが、信乃はまるで別人だ。
1983年の映画『里見八犬伝』では、八犬士親兵衛(真田広之)とヒロインの姫(薬師丸ひろ子)のラブストーリーとおどろおどろしい悪霊(恐るべき夏木マリ)にすっかり目を奪われそうになったが、犬塚信乃はこの後に必殺シリーズでブイブイ言わせることになる京本政樹が演じていた。2006年のドラマ『里見八犬伝』の信乃は、前の年に大河ドラマ『義経』に主演したばかりの滝沢秀明だった。かつては新人時代にドラマや映画で時代劇を経験し、キャリアを積んで大御所になるケースも多かったが、近年、舞台で初時代劇という出演者も増えている。
なお初演より演出は1983年映画版の深作欣二監督の息子・深作健太。舞台では父と息子の葛藤も描かれ、作品との縁の深さを感じる。今回の八人は、かなりのチャンバラ好きになったと見た。『南総里見八犬伝』はさまざまに形を変えつつ、令和の今も俳優を育てている。名前は馬だけどワンコヒーローを考えてくれた馬琴先生に感謝!