フィギュアスケート国際審判員の吉岡信彦さん
◆回転不足は3人の審判員が映像を見て判断
「3人が映像を見直して、判断します。着氷時に回転不足の位置なのに、エッジの前のトウで巧みにくるりんと回って回転の足りている方向に滑り出ていくような、非常に分かりにくいこともありますし、はっきりと回転不足の角度から小さなターンをして滑り出ていくような分かりやすい場合もあります。ただ、わかりにくいケースでもほとんど見逃すことはなく、おかしいと思ったものはすべて見直すようにしています」
この場合も何度も見直すわけではない。「普通はスロー再生で見て、それでも判断つかなければ、2回目はスーパースローで見ます。まれに3回、4回と見直す場合もありますが、基本的にはスローで1回見て判断します。何度見ても映像は変わらないし、進行の問題もあるので、あまり時間をかけているわけにはいかないので。もちろん3人の技術審判員全員が意見を出し合い、もし意見が割れた場合は多数決で決めます」
技術審判員が見る映像はジャッジ席の右側に配置されるカメラで撮られる。
「経験を積んだ専門のカメラマンが撮影しているので、足元の動きはすべて追っています。ただし、立体的な動きを平面のモニターで見ているので、わかりにくい時があるのは確かです。その時はスケーターに有利なように判断しなさいとハンドブックには書いてあります。ただ判断つかないことはほとんどありません」
もうひとつ、点数に大きくかかわる項目で、わかりにくいのが演技構成点だ。フィギュアスケートはジャンプやスピン、ステップを見る技術点と演技構成点から採点する。演技構成点はスケート技術、ジャンプなどの技の前後にターンやステップなどの動きを組み込む技と技のつなぎ、演技力、プログラムの構成、音楽の解釈の5つの項目からなり、各項目とも満点は10点。これを審判するのは、前出のジャッジだ。
◆ルール改正で採点どう変わった?
最近ではこの演技構成点のルール改正がファンの間で大きな話題を呼んでいる。重大なエラー(ミス)が複数あると演技構成点の上限が定められたからだ。重大なエラーとはプログラムが中断され、構成や音楽との関係、連続性、流れるような美しさに影響を与えるもの。これが2つ以上認められると「スケート技術、技と技のつなぎ、プログラムの構成は9.25点まで。演技力、音楽の解釈は8.75点まで」と定められたのだ。
重大なエラーは転倒や、着氷時に回転を抑えきれずに着氷した足と反対の足に前向きに大きく踏み出してしまうステップアウトなどが対象となる。「ただ、同じ転倒やステップアウトでも音楽との関係が大きく損なわれるエラーとそうでないエラーがあります。一方、ジャンプの際のステップアウトもそのままその流れにのるような振り付けにつなげたら、音楽との関係が大きく損なわれないこともあるからです。例えば転倒した後に次のジャンプを跳びに行こうとして、つなぎのステップを省略してスピードをつけるために走っていったら、その部分には何もなくなってしまうので、当然、技と技のつなぎの評価は下がってしまいます。
逆に、すぐに音楽に戻せればそれほど大きな影響はないと言ってもいい。転倒などによる影響の度合いはいろいろです。ジャッジはその度合いを判断して点数をつけているのです。ですから、このルールはもちろん守らなければなりませんが、いま言ったような意味では、単に目安を示しているだけとも言えます」