これはいつも高得点を出すようなトップクラスの選手にも適用されると言う。「もともと、このルールは数年前に、トップクラスの選手が転んだにも関わらずある項目で満点を出したジャッジがいて、それはおかしい、という理由からでき、少しずつ明確化されてきたものです。
今年、“この制限は、あらゆるレベルのスケーターに適用する”と書き加えられましたが、要は転倒などの影響をきちんと反映させて採点しなさいということです。ただ、今回、私がジャッジを務めたグランプリシリーズのフランス大会で、宇野昌磨選手(21才)はショートプログラムで2回転倒しましたが、このルールが無かったとしても、音楽の解釈、演技力ともに残念ながら9点台を出せるような演技内容ではありませんでした。
このことは、同大会で優勝したアメリカのネイサン・チェン選手(20才)もある意味同じです。常に表彰台にあがるような選手でも、シーズン最初と最後では音のとりかたや細かい動きが全然違うし、全体の流れやプログラム後半の躍動感なども違ってきます。
それなのにトップ選手だからという理由だけで、シーズン前半の完成度の低い演技に10点満点に近い高得点を出していたら、シーズン終わりの世界選手権の完ぺきな演技には満点以上のものを出さなくてはいけない。私たちは今の選手の演技を見て、判断しているだけで、過去の滑りや名声について点数を出しているわけでなないのです」
◆ジャッジの意見が違ったらどう判断するのか
ルールに従い、ジャッジは判断するが、それでも各ジャッジによって意見の相違は出てこないのだろうか。
「それぞれのジャッジには、こういうスケートが良い、これはあまりいいプログラムではないという、フィギュアスケートに対する価値観の違いは多少、あります。ただ、ジャッジは多くの経験を積んで、ジャッジングに関する一般的で客観的な考え方を持っています。ですから、その時の演技を見て、各ジャッジとも、標準的にこのスケート技術には8点台、この音楽の解釈には9点台を出すべきだということは共通認識としてあります。ただし、たまに自己主張が強く出るジャッジがいてその中庸部分から大きく離れてしまう場合もありますが、その時は、競技会の終了後にジャッジ同士で意見交換をして考え方を理解しあうようにします」
技術審判員とジャッジは試合が始まる前と終わったあとに、それぞれミーティングを行う。
「試合前は、“今年はこのルールが変更されたので、その部分を注意して見てくださいね”とか、“コンポーネンツ(演技要素)は特にここに気を付けてください”と審判団の長であるレフェリーからの注意があり、ルールの解釈に疑問点があればクリアにします。試合が終わった後のミーティングはラウンドテーブルディスカッションと呼ばれますが、レフェリーが司会をして、GOE(出来栄え点)についてもコンポーネンツについても、評価の分かれたものについて、各ジャッジが意見を出し合い、お互いに理解し合い歩み寄る努力をします。この中では、今のルールに対してどういう風に変えていったほうがいいかなども話し合います」
フィギュアスケートに限らずスポーツは生もの。その時々で、見方も大きく変わってくる。その上で、審判団の視点から見れば、また違った面白さがあるはずだ。
取材・文/廉屋友美乃