多くの場合、受容するきっかけに具体的な理由はないという。本書では作家・大江健三郎氏の体験が引用されている。
「彼の『個人的な体験』という本は、生まれつき後頭部が瘤(こぶ)状に膨らみ、脳がはみ出して生まれてきた子どもを授かる話、知的障害をもった息子の光さんのエピソードです。
約250ページの本ですが、最初から自分の子を延々と拒絶して、最後の10ページぐらいで突如として受容する。その時、何かドラマティックなことが起こったわけではありません。つまり、受容にきっかけはない、また、時間がかかる、と大江さんは言っているのだと思います。育てる以外の選択肢はないという結論に追い込まれる。ある意味、“あきらめ”です」
本書でも、ゴーシェ病という先天性の代謝疾患で生まれてきた子の話がある。
生後5か月でそう診断され、8か月で気管切開をして、1才6か月の時に人工呼吸器を取り付けられた。
「凌雅(りょうが)くんという男の子なのですが、リハビリを続け、骨髄移植に希望を託しますが、断念する。親は絶望して、どん底まで落ちてしまいます。しかし人間って、そうなると這い上がるしかない。一縷の望みもなくなったら前を向くしかない。人生ってそうじゃないですか。“あきらめる”という言葉はあまりポジティブに捉えられていませんが、いい意味のあきらめもあるんです」