レッドソックス時代はWシリーズを制覇した(時事通信フォト)
──自らの引退について、上原浩治はそう振り返った。シーズン序盤の5月という異例のタイミングでの決断は、一本の電話が決め手となったという。
上原:もちろん、シーズン1年間を全うしたかった。でも優勝を目指すチームの邪魔をしてはいけないし、若手の投げる機会を奪いたくない。「もう辞めるべきだな」──そんな葛藤のなか、電話をかけた相手は、原(辰徳)監督でした。「突然すみません。辞めようと思います」と切り出すと、原さんは冷静な声で、「監督としては残ってほしい」と仰った。
そしてその後、少し申し訳なさそうに、でもはっきりとこう言い切りました。「そういう話を俺はできる立場にない。球団と話をしてほしい」
思えば原さんは、何度も僕を救ってくれました。初めてストッパーを任された時にその意図を熱く説明してくれたのも原さんでしたし、今季の契約の際に「上原浩治という選手は、その実績を含めて背番号なしでテストをさせるような選手じゃない」と球団に掛け合ってくれたのも原さんでした。
原さんなら、何か前向きになる言葉をくれるのではないか──どこかでそう考えている自分がいました。その原さんに、冷静に、言い方は悪いけれど突き放された。これが辞めると決心した瞬間でした。
「やっぱりそこまでチームに必要とされていないのか」という悔しさと同時に「戦い終えた」と実感しましたね。プロにとって引退とは、自分が結果を残せなくなったことを受け入れるプロセスなんだと思います。
●取材/佐々木亨(スポーツライター)
※週刊ポスト2020年1月3・10日号