年神を迎えるのではなく、自分から神仏のもとへ挨拶に出向くかたちになったものが、地方によって「二年参り」、もしくは「年越し参り」などと呼ばれるものだ。除夜の鐘のうち107回は大晦日に、最後の一回だけは日付が変わって元旦になってから鳴らされ、それを聞き終えたら参拝をして家路につく。
また、元旦の夜明け前、占いなどでその年の縁起のよい方角を調べ、その方角にある寺社へ参拝に赴くことは「恵方参り」と呼ばれた。地方によって名称に相違があるようだが、共通するのは家を出てから参拝を済ますまでの道すがら、顔見知りと会っても言葉を交わしてはいけないということ。理由は定かでないが、その禁を犯せば、ご利益が無に帰すると言われていた。
少なくとも明治の初めまではこのような風習が受け継がれていた。先に紹介した平山氏の著作によれば、元旦の日中や三が日に徒歩圏外の寺社まで初詣に出かけるようになったのは1872年に新橋~横浜間の鉄道が開通して以降、それも寺社と鉄道会社が“タイアップ”して、「初詣」という言葉を創案した明治中期以降のこと。まさしく「創られた伝統」で、商業主義の産物と言ってしまえば実も蓋もないが、大切なのは形式ではなく真摯な心と思えば、何も問題はないだろう。
細かいことを言い出せば、初詣は今の暦ではなく、旧暦に従うべきでは……との疑問から解いていかねばならないのだ。
【プロフィール】しまざき・すすむ/1963年、東京生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒。旅行代理店勤務、歴史雑誌の編集を経て現在は作家として活動している。著書に『ざんねんな日本史』(小学館新書)、『いっきにわかる! 世界史のミカタ』(辰巳出版)、『いっきに読める史記』(PHPエディターズ・グループ)など著書多数。最新刊に『ここが一番おもしろい! 三国志 謎の収集』(青春出版社)がある。