◆成功のカギは仮想敵作り
ニトリが家具の次に進出したのが小物家電である。この時はヤマダ電機を仮想敵として店舗や製品作りを進めた。
ニトリの似鳥昭雄会長とヤマダ電機の山田昇会長は、どちらも創業者であり、ワンマンそのもののオーナー経営者である。小物家電に参入するにあたり、似鳥氏は山田会長に仁義を切らなかった。ヤマダ電機が住宅や家具に出る時も同様である。
ファッションの仮想敵については明らかにしていないが、遠くに聳え立つファーストリテイリング(ユニクロ)の柳井正会長兼社長に、一歩でも二歩でも近づくことを考えているのではなかろうか。ニトリは株式市場では「家具のユニクロ」と呼ばれている。
M&A業界の首脳は、「アパレル企業の出物(売り物)はたくさんある。赤字が続く三陽商会や、中国資本の傘下に入っているレナウンあたりは買収可能だ。もう少し小ぶりで利益を上げている上場アパレルだって条件次第(プレミアムをつければ)で買える」と胸と叩く。
似鳥氏が異業種にウイングを伸ばしてきた軌跡を簡単に述べておく。2017年4月28日、中古住宅販売のカチタス(同年12月の東証1部に再上場)に出資すると発表した。投資ファンドのアドバンテッジパートナーズから33.9%の株式を230億円で取得し、持ち分法適用会社にした。現在、ニトリはカチタスの筆頭株主だ。
カチタスは中古住宅を買い取ってリフォームした後に、再び販売する中古住宅再生会社。2019年3月期の売上高は813億円。2012年にアドバンテッジパートナーズの完全子会社になり名証セントレックスでの上場を廃止した経緯があり、東証1部にカムバックした。ニトリの家具を据え付けたカチタスの中古住宅を売ることで販路を広げる。中古住宅を扱えば売り上げは大きく伸びるという算段だ。
また、似鳥氏自身は2017年5月に開かれたスーパー大手のイズミの株主総会で社外取締役に就き、現在に至っている。イズミは戦後、広島の闇市から旗揚げし、中・四国と九州一円で大型ショッピングセンター「ゆめタウン」を展開し、トップ企業となった。イズミの会長だった山西義政氏と似鳥昭雄氏の2人がタッグを組むことで流通再編に発展する──との見立てもある。
このように、住宅リフォーム事業への進出、ショッピングセンターの勝ち組企業の社外取締役に就任するなど、2017年に入って似鳥氏は神出鬼没の大活躍ぶりをみせた。そして、次にターゲットにしたのが、家具の製造小売業(SPA)のノウハウを応用できるアパレルだった。