ひらがな50音と数字が記された文字盤を秘書が持ち、“ぎょろり、ぎょろり”と上下左右に目を動かす。秘書が虎雄氏の目が指す文字を読み取り、看護師がメモを取る。そうして意思疎通を図り、病室から指示を飛ばした。
2013年に次男の徳田毅・衆院議員(当時)の公職選挙法違反に絡み、親族や側近が複数逮捕された「徳洲会事件」を機に経営からは退いた。人生をかけて育て上げた徳洲会から離れて6年余り。いままた病院経営を左右する虎雄氏名義の文書が出された。その事実だけで、徳洲会関係者は驚いた。
「虎雄先生は鎌倉市の徳洲会系列病院で療養中だが、病状は悪化していると聞いている。そんな中でこれだけの文字数の文書を出されるとは……」
文書の中身も徳洲会に衝撃を与えるものだった。
具体的な内容には言及しないものの、〈今回の事態を受け、その原因に思いをめぐらせているところです。その中で最も大きなものとして私が受け止めているのは、内部の関係者の力ではやはり限界があったということでした。それは、後継の理事長に鈴木先生を指名したことであります〉と、鈴木隆夫・現理事長を〈自浄作用を問われる事態〉の“最大の原因”として名指ししている。
さらに後任理事長候補としてグループ外の医者の名前を挙げ、〈理念の旗印がさらに輝くことが求められているように思います〉との一文で締めくくられたこの文書からは、病床から現体制を批判する虎雄氏の“執念”が読み取れる。
今年1月に評伝『ゴッドドクター徳田虎雄』(山岡淳一郎著)が文庫化されるなど、虎雄氏に関する著作はいまだ多い。だが、いずれの本でも虎雄氏の直近の病状や体調は詳らかになっていない。
「トラオ文書」はどのような経緯で作られたのか。