「流用先は次女でした。次女は事件化前の2010年、サービス付き高齢者向け住宅の運営を目的とした会社を設立していた。ところが経営が傾き、約1億6000万円の資金を鈴木理事長に頼ったのです」(警視庁担当記者)
越澤氏が語る。
「鈴木理事長には次女など徳田ファミリーを味方に付けて、理事長になったばかりの自分の地位を確かなものにしたいという思惑もあったのではないでしょうか。看過できない問題でした」
虎雄氏の長女の夫が、次女の金の流れを告発した今回の事件から、徳田家の中に反理事長派がいる現状が読み取れる。鈴木理事長はこう主張する。
「警視庁が捜査に入り、私も参考人として話を聞かれたのは事実です。次女が社長を務めていた徳洲会グループの会社が、2014年3月に倒産すると聞きました。そうなると入居者さんたちが、路頭に迷うことになります。迷惑をおかけするのはもちろん徳洲会グループの信頼、評判に関わる一大事だと思いました。そこで不正が起きないよう弁護士を立てて処理しました。この件は設置された内部調査委員会でも問題視されたことはなく、調査結果も厚労省などに広く公表しています」
双方の主張は平行線を辿るばかりだが、泥沼化する“内紛”を前に、病床の虎雄氏は何を思い、その意思はどう伝えられるのか。それでも今もって「トラオの意向」が、徳洲会にとって重い意味を持ち続けていることは確かなようだ。
【プロフィール】いとう・ひろとし/1955年福岡県生まれ。東洋大学文学部哲学科卒。編集プロダクションを経て独立。特に経済事件の取材に定評があり、数多くの週刊誌、月刊誌などに寄稿。主な著書に『許永中「追跡15年」全データ』(小学館文庫)、『「カネ儲け」至上主義が陥った「罠」』(講談社+α文庫)、『黒幕』(小学館)など。
※週刊ポスト2020年1月31日号