二つ目は、曹氏の後任として1月2日に法務部長官に就任したばかりの秋美愛(チュ・ミエ)氏(与党「共に民主党」の前代表)による、検察幹部の “粛清”だ。1月8日、韓国法務部は、尹検事総長を支えてきた腹心の検察幹部らを根こそぎ左遷する人事を発表したのである。
異動になった検察幹部は32人に及ぶ。曹氏一家の不正や「監察もみ消し事件」の捜査を指揮していた韓東勲(ハン・ドンフン)大検察庁反腐敗・強力犯罪部長や、「蔚山市長選挙介入疑惑事件」の捜査を指揮してきたパク・チャンホ大検察庁公共捜査部長らは軒並み地方に左遷された。代わって後任には、文大統領の大学時代の後輩や盧武鉉政権時代の青瓦台スタッフらが就任。尹検事総長は、文大統領の意を汲む人々で包囲される事態になったという。
『韓国「反日フェイク」の病理学』(小学館新書)の著書がある韓国出身の作家・崔碩栄氏は、この検察人事の背景をこう語る。
「もともと尹検事総長は、朴槿恵政権下で左遷された人で、文大統領が2段階も役職を飛ばして検事総長に大抜擢した人物です。当然、『文大統領に従うだろう』と思われていたので、野党の保守派は『検察が政権寄りになる』とこの人事に反対しました。ところが尹氏は、左派・右派に関係なく、政府の不正を追及する人だった。文大統領は、まさか自分たちに矛先が向くとは思わなかったのでしょう。今回はその尹検事総長の手足を奪うための人事と言えます。しかも、新たに幹部に就任した親文在寅派の検事の一人が 『曹国を不起訴にしよう』とまで言い出す始末です」
文政権に“反逆”していた尹検事総長が孤立させられたことで、今後、青瓦台の疑惑捜査が後退する可能性は否定できない。
「尹検事総長がこのまま大人しくしているとは思えない。腹心の幹部を左遷させられたら本人も辞任するだろうといわれていたが辞めなかった。彼はやると思う。上部組織が監視しようが、部下が左派だろうが、検事総長が部下に『青瓦台にガサ入れしろ』と命じたら従うしかないわけですから」(前川氏)
文政権vs検察の対決は、検察が圧倒的に不利な状況で第2ステージを迎えた。尹検事総長がどう巻き返すのか、目が離せない。
●取材・文/清水典之(フリーライター)