そんなわけで、純真で可愛らしい駒は殺伐としがちな戦国ドラマのアイドルといってもいい存在なのだが、そんな折も折、門脇麦は別のドラマで衝撃的な姿になって目の前に現れた。BSプレミアム『シリーズ横溝正史短編集Ⅱ 金田一耕助 踊る!』の第二話「華やかな野獣」だ。
内容は、戦後の混乱期、マスクをつけた男女が一夜の相手を探すパーティーが終わるころ、ホテルの美しい女主人が殺された事件を名探偵・金田一耕助が調べるというもの。前シリーズ同様、池松壮亮演じる金田一がものすごくズタボロなだけでも、サブカルのにおいがぷんぷんするが、この「華やかな野獣」は、なんと登場する男たちもすべて女優が演じるという趣向だったのだ。捜査を指揮する警部は能面のようなメイクにヒゲの我妻マリ、被害者の乱行ぶりをキーキー声で報告する鑑識はヒゲが横にビーンとのびたアン ミカ、そして謎のパーティーに出ていた紳士こそ、ヒゲをつけた門脇麦だった!
年齢的にもビジュアル的にも不可思議にしてアンバランスなこの配役。どよーんとしたままに、犯人のトリックが暴かれる。うなだれるヒゲの美女たち。ちっとも事件が解決した気がしない。それがこの30分ドラマの狙いだったのか。女優がヒゲをつけて出たドラマといえば、天海祐希の「女信長」を思い出すが、そのヒゲには男としてふるまう理由があったもんね…。
令和二年は、門脇麦の可能性の幅広さに圧倒されて始まった。『麒麟がくる』の駒は架空の人物だけに自由自在に動ける。駒が麦がどう変化するか予想もつかない。まだまだ驚かされる気もする。