稚咲内の集落。道路は雪に覆われ、人気はなく閑散としていた(撮影/竹中明洋)

 20年近く前、道内でテレビ局の記者をしていた頃、十勝地方の上士幌町でアイヌ文化の伝承活動に取り組む川上英幸氏を長期取材したことがある。堂々とした白髭の持ち主ながら茶目っ気のある川上氏は、アイヌ文化に不勉強な私がしつこく質問するのに冗談を交えて説明してくれた。アイヌ料理をご馳走になったことも一度や二度ではない。

 出き上がった取材VTRを東京の本局の幹部に見せたところ、木で鼻を括ったように「泥臭い取材やってるね」と言われたことを憶えている。さも、もっと他に取材することがあるだろう、派手な事件のネタを取って来い、そう言わんばかり。当時の報道現場でアイヌといえば、そんな扱いだったように思う。

 アイヌ新法について北海道アイヌ協会の加藤忠理事長は、「抱えきれないような苦しみと悲しみと歴史がありましたが、きょうから出発できるということは、歴史の大きな1ページ」と成立を評価した。

 だが、国が進めるこうしたアイヌ施策に諸手を挙げて賛成する人たちばかりではない。

 アイヌといえば、北海道の先住民族という認識が一般的だが、実はアイヌは北海道だけにいたのではなく、大きく北海道アイヌ、樺太アイヌ、千島アイヌと、文化や言葉を独自に持つ3つのグループに分けられる。さらに、日本の領土で暮らしていた北方少数民族にはウィルタやニヴフも存在する。

 先述した『ゴールデンカムイ』や『熱源』には、そうした少数民族がいきいきとした姿で登場する。ただし、現在のアイヌ施策からは、北海道アイヌ以外の少数民族は取り残されてしまっている。

 私たちは、そうした歴史を、どれだけ知っているだろうか。

◆強制移住させられた後、人口が3分の1になった

 日本最北端の街・稚内からは、宗谷海峡の対岸の樺太(ロシア語でサハリン)まで最も近いところで42km。天気がいい日は島影が見えるという。

 稚内の駅前でレンタカーに乗り、日本海沿いの一本道を南へと向かうと、1時間弱で小さな漁港に着く。陸に揚げられた漁船の多くは長年使われていないようで、寂寥感が漂う。そこから内陸に入った集落が稚咲内(わかさかない)だ。住宅は数十戸ほど。商店も見当たらず、かつてあった小学校は廃校になっていた。

関連キーワード

関連記事

トピックス

小林ひとみ
結婚したのは“事務所の社長”…元セクシー女優・小林ひとみ(62)が直面した“2児の子育て”と“実際の収入”「背に腹は代えられない」仕事と育児を両立した“怒涛の日々” 
NEWSポストセブン
松田聖子のものまねタレント・Seiko
《ステージ4の大腸がん公表》松田聖子のものまねタレント・Seikoが語った「“余命3か月”を過ぎた現在」…「子供がいたらどんなに良かっただろう」と語る“真意”
NEWSポストセブン
今年5月に芸能界を引退した西内まりや
《西内まりやの意外な現在…》芸能界引退に姉の裁判は「関係なかったのに」と惜しむ声 全SNS削除も、年内に目撃されていた「ファッションイベントでの姿」
NEWSポストセブン
(EPA=時事)
《2025の秋篠宮家・佳子さまは“ビジュ重視”》「クッキリ服」「寝顔騒動」…SNSの中心にいつづけた1年間 紀子さまが望む「彼女らしい生き方」とは
NEWSポストセブン
イギリス出身のお騒がせ女性インフルエンサーであるボニー・ブルー(AFP=時事)
《大胆オフショルの金髪美女が小瓶に唾液をたらり…》世界的お騒がせインフルエンサー(26)が来日する可能性は? ついに編み出した“遠隔ファンサ”の手法
NEWSポストセブン
日本各地に残る性器を祀る祭りを巡っている
《セクハラや研究能力の限界を感じたことも…》“性器崇拝” の“奇祭”を60回以上巡った女性研究者が「沼」に再び引きずり込まれるまで
NEWSポストセブン
初公判は9月9日に大阪地裁で開かれた
「全裸で浴槽の中にしゃがみ…」「拒否ったら鼻の骨を折ります」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が明かした“エグい暴行”「警察が『今しかないよ』と言ってくれて…」
NEWSポストセブン
指名手配中の八田與一容疑者(提供:大分県警)
《ひき逃げ手配犯・八田與一の母を直撃》「警察にはもう話したので…」“アクセルベタ踏み”で2人死傷から3年半、“女手ひとつで一生懸命育てた実母”が記者に語ったこと
NEWSポストセブン
初公判では、証拠取調べにおいて、弁護人はその大半の証拠の取調べに対し不同意としている
《交際相手の乳首と左薬指を切断》「切っても再生するから」「生活保護受けろ」コスプレイヤー・佐藤沙希被告の被害男性が語った“おぞましいほどの恐怖支配”と交際の実態
NEWSポストセブン
国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白(左/時事通信フォト)
「あなたは日テレに捨てられたんだよっ!」国分太一の素顔を知る『ガチンコ!』で共演の武道家・大和龍門氏が激白「今の状態で戻っても…」「スパッと見切りを」
NEWSポストセブン
2009年8月6日に世田谷区の自宅で亡くなった大原麗子
《私は絶対にやらない》大原麗子さんが孤独な最期を迎えたベッドルーム「女優だから信念を曲げたくない」金銭苦のなかで断り続けた“意外な仕事” 
NEWSポストセブン
ドラフト1位の大谷に次いでドラフト2位で入団した森本龍弥さん(時事通信)
「二次会には絶対来なかった」大谷翔平に次ぐドラフト2位だった森本龍弥さんが明かす野球人生と“大谷の素顔”…「グラウンドに誰もいなくなってから1人で黙々と練習」
NEWSポストセブン