深部体温と皮膚温度の差が縮まると眠くなる(『スタンフォード式 最高の睡眠』より)
世界の睡眠研究はスタンフォードから始まったと言ってもよいでしょう。研究所が蓄積したエビデンスを元に「最高の睡眠法」を日本の皆さんに伝えるのは、私の使命だと考えています。
「最高の睡眠」とは、脳と体と精神を最高のコンディションに整える質の高い睡眠を指します。結論を言えば、「最高の睡眠」は眠り始めの90分で決まります。私は「黄金の90分」と呼んでおり、この最初の90分をいかに深く眠るかが極めて重要です。
最初に深い睡眠を確保できれば、その後の睡眠リズムが整いやすいことは判明しており、黄金の90分の質を高めれば、自律神経も整い、すっきりとした朝を迎えられます。成長ホルモンが最も多く(70~80%)分泌されるのも、この最初のノンレム睡眠が訪れる90分。逆に最初の90分の睡眠の質が悪かったり、外部から阻害されて崩れれば、何時間寝ようと、残りの睡眠も乱れ、目覚めの良い朝を迎えることができません。
しかしながら、寝つきが悪いと悩む人は多いでしょう。そこで実践してほしいのが、「体温」と「脳」という眠りのスイッチの操作です。スムーズな入眠の実現には、体の内部の温度(深部体温)と手足の温度(皮膚温度)の差が縮まっていることがカギを握ります。この差が縮まり深部体温が下降する時に入眠しやすくなるのです。
入眠時に皮膚温度を上げて熱放散し、深部体温を下げるのに、特に効果的なのが就寝90分前の入浴です。深部体温は上がった分だけ大きく下がろうとする性質を持つので、入浴で深部体温を一時的に上げて急降下させると熟睡につながります。足湯も効果的。深部体温を下げる「冷やしトマト」を夕食時に食べるのも一案です。就寝前、脳を刺激するスマートフォンやパソコンを操作するのは避けましょう。
睡眠については謎が多く、まだ5%もわかっていないというのが実感です。睡眠は個人差も大きいので、様々なことを試し、自分の睡眠にとってよかったことを習慣化するとよいでしょう。
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なお、西野博士が提示する「スタンフォード式 最高の睡眠」7か条は以下だ。
(第1条) 起床時間、入眠時間を固定する
(第2条) 咀嚼を重視した朝食を摂る
(第3条) 15~30分程度の仮眠(昼寝)をとる
(第4条) 夕食に冷やしトマトなど、深部体温を下げる食品を食べる
(第5条) 就寝90分前に入浴完了、すぐ寝るときはシャワーを
(第6条) 就寝前はスマホやパソコンなどの電子機器を排除
(第7条) 靴下を脱いで裸足で寝る
睡眠は「ノンレム」と「レム」の繰り返し(『スタンフォード式 最高の睡眠』より)
スタンフォード大学式の睡眠術を日本に伝えた同大医学部精神科教授の西野清治氏
【プロフィール】にしの・せいじ/1955年生まれ。医学博士。1987年、大阪医科大学大学院からスタンフォード大学医学部精神科睡眠研究所に留学。突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の原因究明に全力を注ぎ、グループの中心としてヒトのナルコレプシーの主たる発生メカニズムを突き止めた。2019年、脱・睡眠負債を掲げ、睡眠情報発信などを展開する(株)ブレインスリープを設立。『スタンフォード大学教授が教える 熟睡の習慣』 (PHP新書)などの著書もあり、最新刊は『睡眠障害 現代の国民病を科学の力で克服する』(角川新書)
※週刊ポスト2020年3月20日号