最近の特殊詐欺では計画者と運営者、そして実行者がそれぞれ全く別の場所から集められ行われていることは繰り返し報じられているし、私自身も記事にして伝えてきた。報告、連絡、相談がしづらいのに組織がバラバラに置かれるのは取り締まりを逃れるため、たとえ末端が逮捕されても突き上げ捜査が運営者などに及ばないための手法だった。しかし意思系統の疎通が一筋縄で行かなくなった事が災いし、末端の「暴走」も珍しいものではなくなると、計画者すら思いもよらなかったような凶悪事件に発展するようになったのだ。
「特殊詐欺」が蔓延する世の中になっては情けない…などと憂いた当時がもはや懐かしく感じるほど、我が国は未曾有の凶悪犯罪大国になったのかもしれない。三年半前には「想像すらできなかった」フェーズに移行した”特殊詐欺”は、やはり今後も変貌を遂げるのか。不安を煽るわけではないが、と前置きしつつX氏が重い口を開く。
「特殊詐欺は常に、持たざる者が持つ者から奪う、という図式で行われてきました。最初は騙されやすい金持ちを探し出し騙して奪う手法、そして最近は金持ちなら誰でもいいから奪う手法が取られるようになりました。金持ちと貧乏人の図式は、そのまま年寄りと若者という図式に置き換えられてもいます。そう考えれば、相手が金持ちでなくとも、力の弱い高齢者であれば狙われる、というようなことが起きるでしょう」
特殊詐欺のときから続く、金持ちから奪うから罪はないという身勝手な主張は、アポ電強盗でも引き継がれた。だが、彼らは犯罪を起こすにも雑で、結局金を奪えずに、もしくは想定したよりも少ない金額しか奪えずに犯人が逃走した事案がすでに起きている。さらに………。
「相手が金持ちかどうか、確実な情報は身近な人にしかわかりません。アポ電が通用しなくなれば、例えば金に困った若者が、自分の親や親族を金持ちだからというだけで狙うかもしれない。金持ちの近隣住人を狙うことだってあるでしょうし、そうした情報が売買され始めるはずです」(X氏)
特殊詐欺で逮捕された若者たちのなかには、実家の親には「起業して成功した」とだけ伝えて仕送りをしていた者もいた。だが、これからは身内からも奪って当然という、荒んだ考え方に疑問を抱かない世代があらわれるかもしれないというのだ。
特殊詐欺の被害件数はピーク時の18212件(2017年)から少し減って16836件(2019年暫定値)となっているが、いまだ高水準にある(警察庁調べ)。気がかりなのは、ピークを過ぎた時期と、詐欺から強盗へとフェーズが移動した時期が重なっていることだ。詐欺から強盗への移行は、今後も続きそうだ。
治安をよくするためには、経済的な満足が欠かせない。だが、今は貧しくとも将来は脱出できると若者たちが考えられるような社会でなければ、彼らは不満をため続け、みずからの貧困を解消するには奪えばよいと短絡的に考えるのを止められないのではないか。経済的な手助けに加えて、未来は明るいと思えるようにならなければ、アポ電強盗のような犯罪を減らすのは難しいのかもしれない。