映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、女優の渡辺えりが、他者の人生を生きることについて目覚めたときについて語った言葉をお届けする。
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渡辺えりは一九五五年、山形県に生まれる。子供の頃から友達の誕生日会などで劇の演出をし、早くに表現に目覚めていた。
「二歳ぐらいの頃にかくれんぼをやっていまして。私が鬼になって、みんな隠れたままいなくなっちゃったんです。その時に凄く寂しくて──言葉では理解できていなくて感覚としてですけど──人間って独りだということが分かったんですよ。
そこに心配した祖母がやってきて、普通ならほっとするんでしょうけど、おんぶされて帰る時の背中が温かくて、この人も自分と別の人だと分かって。大泣きした記憶があります。
人間っていうのは生まれて死んでいくという、刹那的な存在だと感覚的に感じた時に死ぬのが恐ろしいという思いに襲われて。他者の人生を生きることで、一回限りの人生ではないということを体現したいという感覚が生まれたというのが発端です。
お誕生日会で脚本を書いて演出してみたら、それが好評で、中学に入る頃にはオリジナルの作品を作っていました。子供の頃から物語を毎日読み聞かせをしてもらっていて、その物語が終わった続きを自分で書く癖があったんです。鬼を成敗した後、桃太郎の子分である雉や猿はどうなったのか、とか。物語を作るのが好きだったんですね」
高校では演劇クラブに所属、卒業後は上京してプロの役者を目指すようになる。