そんな事よりこの本だ。私より30歳近く若いのにいろんな事を教えてくれるので有難い。我々小田急沿線の団塊世代がガキの頃は、下北沢やら経堂の映画館で三本立てを見るのだけが娯楽と教養の時間。片岡千恵蔵・市川右太衛門、二大御大の時代。さっそうとオンボロ銀幕に現われたのが大川橋蔵、市川雷蔵である。絵に描いたような美しさ。橋蔵は『新吾十番勝負』が代表作、テレビへ行けば『銭形平次』はなんと888回放送という金字塔。“三ノ輪の万七”というライバルの岡っ引きもいい味。原作は野村胡堂、読んでるだけで様々な名前を想い出します。
市川雷蔵とくれば円月殺法『眠狂四郎』、その立ち姿が妖しく光る。実は濡れ場を楽しみにせっせと三本立てへ行ったのですが、気が付くと四本立てになっていました。
この1950年代、この二人に中村錦之助、東千代之介を入れて業界内では「二スケ二ゾウ」と呼ばれていたらしい事をこの本で初めて知りました。時代劇をもう一度楽しもうとか初めて入っていこうとする人への道しるべとなる傑作な1冊。明日から刀を差そう。
■イラスト/佐野文二郎
※週刊ポスト2020年4月3日号