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自粛要請と相反する若者の「過大視本能」を心理士指摘

「自粛要請」の段階はいつまで続く?(時事通信フォト)

臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、依然として自粛要請の続く新型コロナ対策への提言をお届けする。

 * * *
 約2000人。この数字に、若者に外出を自粛させるだけのインパクトが、どれくらいあるのだろうか。

 3月31日現在、クルーズ船を除いた日本国内での新型コロナウイルスの感染者数は2000人を超えた。東京では29日に68人、30日には13人、31日には78人と過去最多の患者数が報告されている。とはいえ、安倍首相が「緊急事態宣言瀬戸際の状況」と述べていたが、その割に少ないなという印象ではないだろうか。

 東京都の人口は現在、約1400万人、昼間の人口は約1600万人。これだけ人口が密集している東京で、感染者が1日に78人と言われても危機感はそれほど強くならない。アメリカでは12万人以上、イタリアが9万人以上、中国は8万人以上。連日、欧米の各国で軒並み万の桁の感染者数がカウントされているのだ。それだけに、日々発表される数字だけでは、閉塞感を発散させたい人々の活動を自粛させるだけの説得力はないだろう。

 週明けの東京では通勤ラッシュが戻り、街も人通りが増えた。小池都知事は3月30日夜に緊急記者会見を開き「感染爆発の重大局面だ」として若者と中高年に夜間の外出自粛を要請した。感染源がわからない感染者の行動を分析した結果、夜の街での感染疑いが多発という報告が厚労省のクラスター対策班からあったからだが…。

「オーバーシュートだ、ロックダウンだと叫んでも、日本の感染者数はこんなに少ないじゃないか」

 人には何かの大きさや割合を勘違いしてしまうという思い込みがあると、医師のハンス・ロスリングはベストセラーとなった『FACTFULNRSS』で述べている。「過大視本能」というこの思い込みは、「この数字はなんて大きいんだ、なんて小さいんだ」という勘違いを生むという。

 さらにこの思い込みは「ひとつの実例を重要視しすぎてしまう」という特徴がある。これまで「若者や子供は感染しても重症化しない」という報道がされてきた。「自分たちには影響がない、かかったところで大したことにはならない」━━若者に意識を高く持てと訴えても、彼らの心にはなかなか届かない。感染したくないという意識より、自分は感染していないから平気、外に出たい、仲間と飲みに行きたいという感覚が優先するのではないだろうか。

 ここ数日、ドイツの例が情報番組でしきりに取り上げられている。日本の致死率は約3%なのに、約4万人の感染者に対し致死率0.7%と他国より圧倒的に低い。その理由はドイツの医療体制と週50万件といわれる検査で感染者を早期発見していることにあるという。

 実際の感染者数は、いったいどれくらいなのか? 今、日本中の誰もが一番知りたいのはそこだ。日本はPCR検査のスクリーニングが厳しく未だ積極的に検査を行っていない。医療崩壊を防ぐためと聞くが、長崎県では3月18日に1日最大130件実施の見通し、福島県では25日に最大57件と公表、東京都でも検査の限界はおおよそ130件程度と聞く。今のままなら東京都の感染者数が1日に130を大幅に超えることはないだろう。

 だがオリンピックが延期になった途端、小池都知事が緊急会見を繰り返し、大阪の吉村知事は「緊急事態宣言を出すべき」と訴えている。この様子に、本当はこの何百倍も感染者がいるのではないかと思えてくるのは私だけではあるまい。武漢で感染が発生した当時、発表された感染者数が真実なのかと中国批判が起こったが、今や国内の感染者数が疑わしい。医療崩壊は怖いが、データが分からないと現状を正しく把握することすらできない。

 数字はある意味、圧倒的なインパクトを与える。自粛要請を繰り返すだけでなく、そろそろ本気で危機感を抱かせるだけの数字が必要ではないだろうか。

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