国内

安倍首相の「うちで踊ろう」動画炎上の理由を心理士考察

「うちで踊ろう」コラボに批判殺到(時事通信フォト)

 臨床心理士・経営心理コンサルタントの岡村美奈さんが気になったニュースや著名人をピックアップ。心理士の視点から、今起きている出来事の背景や人々の心理状態を分析する。今回は、賛否を巻き起こした安倍首相が自宅でくつろぐコラボ動画について考察。

 * * *
「過去最高の35万を越える『いいね』をいただいている」と菅官房長官が定例会見で話したのは、安倍晋三首相のツイッターだ。歌手で俳優の星野源さんがコラボを呼びかけSNSで公開した楽曲「うちで踊ろう」に首相が共感、投稿したという。

 公開当初から話題になり、すでに多くのミュージシャンやアーティスト、お笑い芸人やアスリートなどが、星野さんの歌声に合わせて歌ったり踊ったり、各々の個性や職業を活かしコラボレーションしている動画だ。

 そこには画面の半分を使い、愛犬を抱いたり、お茶を飲んでくつろいだり、読書したりする安倍首相の様子が約1分流れている。自宅待機を呼び掛けるメッセージも添えられたこの動画は、菅官房長官が言うように、すでに“いいね”の数が40万近くなる。だが同時に多くの批判も噴出し、賛否両論を巻き起こしている。

 コロナの感染拡大と緊急事態宣言で混乱する中、優雅にも見えるその様子に「くつろいでいる場合じゃない」「貴族か」「無神経だ」「官邸の感覚もズレている」と批判が殺到。「何様のつもり!」が一時トレンドワード入りしたほど。コロナ対策に疲弊しているのは首相も同じだろうが、生活が困窮しつつある人々にとって、閣僚や議員たちは同じ痛みを分かち合える存在とは捉えられていないようだ。

 強権で知られるフィリピンのドゥテルテ大統領は、感染症対策に1か月分の給料を、閣僚らも年内の月給の75%を寄付。下院議員200名も対策の初期費用約1億円を集めるため、5月1か月分の給与を全額寄付することに合意したと米国のCNNが報じている。日本では4月7日の会見で「世帯への給付金」について問われた首相が「国会議員や公務員はこの状況でも全然影響は受けてない」と述べ、そこに給付するのはどうかと思うと発言し、物議を醸したばかりだ。

 しかしそれ以上に多かったのは、星野さんに「便乗している」「政治利用するな」という批判の声だ。首相が投稿した動画は“コラボ”というより星野さんの人気に“乗っかっている”と捉えられたのだ。

つまり、「フリーライダー」という印象を強く与えてしまったのではないだろうか。フリーライダーとは経済学や経営学などでよく使われる用語で、他人の成果にタダ乗りする人のことをいう。組織でいえば給料をもらっているのに仕事をしない人、人の手柄を横取りしてしまう同僚や上司など、様々なコストを払わず恩恵だけを得ようとする人を指す。

“ステイホーム”を訴えたかったという首相の気持ちはわかるが、星野さんの「楽器や伴奏やコーラスやダンスを重ねてくれないかな」と呼びかけた主旨や意図に合っているとは思えない。せめてくつろぎながら曲に合わせて頭や足を振るなり、本のページをリズムに合わせてめくるなり、愛犬を踊らせるなり、何らかのパフォーマンスをしていれば、とりあえずコラボとして成立したのでは…と思うのだ。

 さらに残念なのは、今回の首相のツイッターが人々の気持ちをザワつかせたことだ。今はこんなことで国民も議員もメディアも意見を言い合っている場合ではないし、首相がそのきっかけを人々に与えるべきではない。それでなくても、全世帯ではなく困窮している家庭に30万円という給付金が、国民の中に不公平感を生んでいる。首相の言動がどのような形でも、人々の気持ちを対立させ分断を招いてしまっては元も子もない。

 悲鳴を上げているのも我慢しているのもみんな同じ。国民の気持ちを1つにまとめ、“いいね”だけが湧きおこるメッセージを安倍首相には発信してもらいたい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

防犯カメラが捉えた緊迫の一幕とは──
《浜松・ガールズバー店員2人刺殺》「『お父さん、すみません』と泣いて土下座して…」被害者・竹内朋香さんの夫が振り返る“両手ナイフ男”の凶行からの壮絶な半年間
NEWSポストセブン
リモートワークや打合せに使われることもあるカラオケボックス(写真提供/イメージマート)
《警視庁記者クラブの記者がカラオケボックスで乱痴気騒ぎ》個室内で「行為」に及ぶ人たちの実態 従業員の嘆き「珍しくない話」「注意に行くことになってるけど、仕事とはいえ嫌。逆ギレされることもある」 
NEWSポストセブン
「最長片道切符の旅」を達成した伊藤桃さん
「西国分寺から立川…2駅の移動に7時間半」11000kmを“一筆書き”した鉄旅タレント・伊藤桃が語る「過酷すぎるルート」と「撮り鉄」への本音
NEWSポストセブン
ドジャース・山本由伸投手(TikTokより)
《好みのタイプは年上モデル》ドジャース・山本由伸の多忙なオフに…Nikiとの関係は終了も現在も続く“友人関係”
NEWSポストセブン
齋藤元彦・兵庫県知事と、名誉毀損罪で起訴された「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志被告(時事通信フォト)
NHK党・立花孝志被告「相次ぐ刑事告訴」でもまだまだ“信奉者”がいるのはなぜ…? 「この世の闇を照らしてくれる」との声も
NEWSポストセブン
ライブ配信アプリ「ふわっち」のライバー・“最上あい”こと佐藤愛里さん(Xより)、高野健一容疑者の卒アル写真
《高田馬場・女性ライバー刺殺》「僕も殺されるんじゃないかと…」最上あいさんの元婚約者が死を乗り越え“山手線1周配信”…推し活で横行する「闇投げ銭」に警鐘
NEWSポストセブン
伊勢ヶ濱親方と白鵬氏
旧宮城野部屋力士の一斉改名で角界に波紋 白鵬氏の「鵬」が弟子たちの四股名から消え、「部屋再興がなくなった」「再興できても炎鵬がゼロからのスタートか」の声
NEWSポストセブン
環境活動家のグレタ・トゥンベリさん(22)
《不敵な笑みでテロ組織のデモに参加》“環境少女グレタ・トゥンベリさん”の過激化が止まらずイギリスで逮捕「イスラエルに拿捕され、ギリシャに強制送還されたことも」
NEWSポストセブン
親子4人死亡の3日後、”5人目の遺体”が別のマンションで発見された
《中堅ゼネコン勤務の“27歳交際相手”は牛刀で刺殺》「赤い軽自動車で出かけていた」親子4人死亡事件の母親がみせていた“不可解な行動” 「長男と口元がそっくりの美人なお母さん」
NEWSポストセブン
荒川静香さん以来、約20年ぶりの金メダルを目指す坂本花織選手(写真/AFLO)
《2026年大予測》ミラノ・コルティナ五輪のフィギュアスケート 坂本花織選手、“りくりゅう”ペアなど日本の「メダル連発」に期待 浅田真央の動向にも注目
女性セブン
トランプ大統領もエスプタイン元被告との過去に親交があった1人(民主党より)
《電マ、ナースセットなど用途不明のグッズの数々》数千枚の写真が公開…10代女性らが被害に遭った“悪魔の館”で発見された数々の物品【エプスタイン事件】
NEWSポストセブン
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《ハワイで白黒ペアルック》「大谷翔平さんですか?」に真美子さんは“余裕の対応”…ファンが投稿した「ファミリーの仲睦まじい姿」
NEWSポストセブン