◆直感を養うことが求められる時代
〈『ドレミ』は使わない〉〈学祭ではミスコンより『ハノン速弾き大会』〉等々の〈音大あるある〉に、〈指揮科は意外とプレイボーイ〉〈ピアノ科は泥沼〉といった恋愛事情。また管楽器ではトランペットがモテ系、テノール男子はナルシシストなど、専攻と性格の相関関係なども読みどころだ。
「演奏会のパンフレットなどに載せるプロフィールの盛り方も独特だと思いました。誰々に師事して何々コンクール第何位とか、華々しい経歴がずらりと並ぶのですが、それがむしろ音楽で生きていく厳しさを物語っている気もします」
卒業後、プロの演奏家や楽団員になれるのは一握り。音大生にとっては音大生でいられる間こそが演奏環境にも恵まれ、好きな音楽を好きなだけ愛せる、至福の時間なのかもしれない。
「新垣さんも対談時に〈必要な音楽〉があるというのは優雅なことだとおっしゃっていました。音楽さえあれば何も要らないと話し、全てを音楽の糧にする新垣さんは、本当に純粋で人柄の素晴らしい方でした。
最近では私も五感を鍛えて直感を養うことが、こんな時代だからこそ求められている気がしています。情報に流され、恐怖で固まる前に自ら危険を察して動く力を、個人的にも身につけたい。人間がAIに取って代わられた時、残るのは芸術だとも言われますよね。今からでも楽器を習ったり、美しい音楽に触れて感性を磨くことが、今後は生死すら分けるかもしれません」
先行きが不透明で不穏な時代において、今を生き抜く術として音楽を捉える辛酸氏の考察が、何かしら抗い難い説得力を宿すのは確かだ。
【プロフィール】しんさん・なめこ/1974年東京都生まれ、埼玉県育ち。女子学院中高時代は部活でマンドリンを演奏。「最近は芦田愛菜ちゃんが慶應中でマンドリンを始め、『徹子の部屋』で演奏したのが、マンドリン界隈での明るい話題です(笑い)」。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業後、漫画家、コラムニストとして活躍。著書に『女子校育ち』『霊道紀行』『魂活道場』『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後』等。155cm、A型。
構成■橋本紀子 撮影■国府田利光
※週刊ポスト2020年4月24日号