「ママったら石窯で焼くどころか、ピザなんか食べないじゃん(笑い)」と、私も楽しくなって返した。

「パパもよく、そんなこと言ってたわ」と、思いがけず母が反撃してきた。

 母にはもう洋服だんすのような大型冷蔵庫は必要ないし、サ高住の小さな部屋にマッサージチェアをドーンと置いたら、歩くところがなくなってしまう。住宅内の食堂で3食とも作ってもらっているので、石窯焼き風ピザもかまど炊き風のご飯もいらない。

 そこを“皮肉られた”と深読み?…と驚いたが、もちろん私もそんなつもりは毛頭なかった。

「買わないのに見たってしょうがないだろうって。パパって本当につまらないわ!」

「そっちだったか」と思わず苦笑。普段は亡くなった父を“素晴らしい夫だった”と大げさにほめちぎっているのに、突然、ふたりでデパートに行ったときの小競り合いを思い出したのだろう。

 私にも家電でワクワクする母の気持ちはよくわかるのだ。

 いっぱいに食材を詰め込んだ大型冷蔵庫のある生活、お店で食べるようなピザを手軽に食卓に出せる生活、ロボット掃除機に床掃除をさせ、スマートスピーカーに話しかける生活。現実の自分とは少々かけ離れていても構わずに、「いいな~」と憧れて楽しめるのも、ひとつの生活力だ。夢を思い描くのは自由で無限大、しかもタダだ。

 認知症になっても母のその力が健在なのは、幸せなことだとつくづく思う。

「男って、そういうところがダメだよね」と言うと、母も主婦の顔に戻って笑った。

※女性セブン2020年5月7・14日号

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