◆芸人になって、見た目をいじられるのが絶対に嫌だった
──そもそもアメリカに行ったきっかけは? なぜ日本で俳優や芸人を目指さなかったのでしょうか?
藤井:桐朋短期大学で演劇を学んで、将来は役者になりたいと思っていたし、自分は役者に向いているとも思っていました。でも周りは可愛い子ばかりで、外見を重視する日本では活躍の場がないと思ったんです。じゃあ、海外に行こうと。英語を話せるようにもなりたかった。周囲には、芸人も薦められたんですよ。絶対芸人になるべきだと。私が男の人だったら目指していたでしょうね。でも、日本のお笑いはマッチョイズムが強いと感じていたし、何より、見た目をいじられるのが絶対に嫌だったんです。
今なら気にしないと思います。何を言われても傷つけられないくらいの自信をつけたから。でも当時の私は、どんなに薦められても、お笑いの学校を検索することさえしませんでした。
──日本で芸人にならなかったけど、アメリカでコメディアンになられた。ご自身に合った場所を探されたわけですね。
藤井:私はアメリカでお笑いをするために存在していたんだな、とさえ、今は思っています(笑)。もちろん役者の仕事も好きで、どんな仕事もやっています。ユニークなアジア人の役が多いんですけど、オファーいただいた仕事は全部やります。そういう姿勢でやって、なんとか生活しているところです。
──どのようなコメディ、ネタをされているんですか?
藤井:スタンダップ・コメディです。いまアメリカで話題の才能のあるコメディアンはデイヴ・シャペルで、私も彼の笑いにはもはや感心させられます。ジェンダーや人種、社会問題を扱ったギリギリのネタが多く、個人的に笑えないものもあるのですが、あらゆるタブーを俎上に載せている。差別や社会の構造を完璧に理解できていないとできない笑い。ネットフリックスで見られるのでぜひ一度見てみてください。
私がやるのは、パンチアップか自虐ネタが多いですね。自分がアジア人というマイノリティなので、アメリカ人のこういうところはヘンだと、弱者が強者に切り込むパンチアップができるんです。フェミニストジョークもパンチアップで、スタンダップ・コメディと相性がいいし人気です。私はフェミニズムを世の中にもっと広げたいと思っていますが、面白く、笑いを交えることで、より伝わると思っています。