医療従事者らに敬意と感謝の気持ちを示すため飛行する航空自衛隊・曲技飛行チーム「ブルーインパルス」(時事通信フォト)

医療従事者らに敬意と感謝の気持ちを示すため飛行する航空自衛隊・曲技飛行チーム「ブルーインパルス」(時事通信フォト)

 5月1日、日本医師会などが加藤厚労省に要望書を提出したが、それによると3月時点、医療機関の「収入」である診療報酬の請求権はすでに15~20%の落ち込みを見せていたという。4月の落ち込みについても「外来・入院ともに大幅に患者が激減」とあり、従業員の給料を確保することが難しく、新型コロナウイルスの感染終演後に地域医療が崩壊するかもしれないという懸念にも触れられている。

「はっきり言ってきついですが、患者さんに通院してください、とは言いにくい。病院が3密になってしまえばそれこそ元も子もないですから」

 こう話すのは、東京都世田谷区内の診療所に勤務する内科医・田中亮介さん(仮名・30代)。普段はと言えば、朝から高齢者が診療所の前に列をなし、夕方の診療終わりまでひっきりなしに患者が訪れる。「病院がまるで高齢者の憩いの場になっている」などと揶揄される光景ではあったが、こうした患者のおかげで「食えていた」とも吐露する。

「高齢の患者さんの多くは、コロナを恐れての診療・通院控えをされています。高齢者がコロナに感染すると重症化する、といった報道がなされた4月以降、患者がゼロの日もあるほど。しかし、患者が来ないからと言って診療所を休みにすることはできません。看護師やスタッフを減らすこともできず、とにかく開け続けているのですが、それだけでも現金は出ていきます」(田中さん)

 そんな苦境の中、田中さんの下に突然「大量のアルコール剤」が届いたのは、ちょうどゴールデンウィーク明けのことだった。

「地域の保健所を通じて、厚労省から医療機関・福祉施設などに消毒用のアルコールが優先販売されるという案内が届きました。それが4月の上旬くらい。当時はアルコールだけでなく、マスクも全く足りていない状況で、アルコールは薄めて、マスクは同じものを一週間も使い回しました。5リットルほどを注文したのはよかったのですが、それ以降何の音沙汰もなし。ゴールデンウィーク中に何とかアルコール消毒剤は入手できたのですが、ゴールデンウィーク明けに宅急便でいきなり5リットルの消毒剤が届きました。そもそも、供給できる状態になったら事前に連絡するという説明も書かれていましたのに連絡無し。届いたものの価格は市価の2倍近くでした。アベノマスク同様、もはやいらないものを高額で押し売りされたようなもの。ただでさえ大切な手元の現金が減ることに、不安を感じます」(田中さん)

 この件については、すでに一部マスコミでも取り上げられている。国の斡旋で販売された消毒液が市価の数倍もし、しかも注文した医療機関らが「忘れた頃」、およそ1ヶ月後に届けられたということで、現場が混乱しているという。日本医師会もすでに実態調査を進めているというが「頑張っている医療従事者のために」と、政府は事あるごとに「配慮の姿勢」をほのめかすものの、消毒剤の件といい、医療機関の現実をしっかりと把握しているのか疑わしい限り。

 さらに田中さんが恐れるのは、業界では「6月危機」とも呼ばれる、経済的な要因による「医療崩壊」の可能性だ。

「診療報酬は、約2ヶ月後に医療機関に支払われます。患者が激減した4月分の診療報酬は6月に支払われるのですが、現状で言えば完全な赤字。概ね6月から8月にスタッフに支払っている夏ボーナスについても、出どころを確保できていない医療機関も多いと聞きます。当たり前ですが、人がいなくなれば医療機関も無くなります。医療機関がなくなれば、人が死ぬんです。恥も外聞も捨てて、金をくれというしかない。」(田中さん)

 世間からの「医療従事者は頑張れ、応援してます」という声は、彼らにとっても嬉しいだろうし、励みになるものだろう。ただ、そのおかげで弱音を吐けなくなっているという医療従事者、医療機関が増えている現実にも目を向けなければならない。コロナ後の世界が、医療機関が減り、医療従事者が職にあぶれる、というものであれば、今以上の苦しみが世界を再び襲うことも確実なのだ。

関連記事

トピックス

都内の人気カフェで目撃された田中将大&里田まい夫妻(時事通信フォト/HPより))
《ファーム暮らしの夫と妻・里田まい》巨人・田中将大が人気カフェデートで見せた束の間の微笑…日米通算200勝を目前に「1軍から声が掛からない事情」
NEWSポストセブン
浅草・浅草寺で撮影された台湾人観光客の写真が物議を醸している(Xより)
「私に群がる日本のファンたち…」浅草・台湾人観光客の“#羞恥任務”が物議、ITジャーナリスト解説「炎上も計算の内かもしれません」
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト)
《横綱昇進》祖父が語る“怪物”大の里の子ども時代「生まれたときから大きく、朝ご飯は2回」「負けず嫌いじゃなかった」
NEWSポストセブン
ブラジルを公式訪問されている秋篠宮家の次女・佳子さま(時事通信フォト)
《スヤスヤ寝顔動画で話題の佳子さま》「メイクは引き算くらいがちょうどよいのでは…」ブラジル訪問の“まるでファッションショー”な日替わり衣装、専門家がワンポイントアドバイス【軍地彩弓のファッションNEWS】
NEWSポストセブン
ヤクザが路上で客引きをしていた男性を脅すのにトクリュウを呼んで逮捕された(時事通信フォト)
《ヤクザとトクリュウの上下関係が不明に》大阪ミナミでトクリュウを集めて客引き男性を脅して暴力団幹部が逮捕 この事件で”用心棒”はどっちだったのか 
NEWSポストセブン
2013年大阪桐蔭の春夏甲子園出場に主力として貢献した福森大翔(本人提供)
【10万人に6例未満のがんと闘う甲子園のスター】絶望を支える妻の献身「私が治すから大丈夫」オリックス・森友哉、元阪神・西岡や岩田も応援
NEWSポストセブン
新横綱・大の里(時事通信フォト))
《地元秘話》横綱昇進の“怪物”大の里は唯一無二の愛されキャラ「トイレにひとりで行けないくらい怖がり」「友達も多くてニコニコしてかわいい子だったわ」
NEWSポストセブン
ミスタープロ野球として、日本中から愛された長嶋茂雄さんが6月3日、89才で亡くなった
長島三奈さん、自身の誕生日に父・長嶋茂雄さんが死去 どんな思いで偉大すぎる父を長年サポートし続けてきたのか
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
金髪美女インフルエンサー(26)が “性的暴力を助長する”と批判殺到の「ふれあい動物園」企画直前にアカウント停止《1000人以上の男性と関係を持つ企画で話題に》
NEWSポストセブン
逮捕された波多野佑哉容疑者(共同通信)。現場になったラブホテル
《名古屋・美人局殺人》「事件現場の“女子大エリア”は治安が悪い」金髪ロングヘアの容疑者女性(19)が被害男性(32)に密着し…事件30分前に見せていた“親密そうな様子”
NEWSポストセブン
東京・昭島市周辺地域の下水処理を行っている多摩川上流水再生センター
《ウンコは資源》排泄大国ニッポンが抱える“黄金の資源”を活用できてない問題「江戸時代の取引金額は10億円前後」「北朝鮮では売買・窃盗の対象にも」
NEWSポストセブン
ブラジル公式訪問中の佳子さま(時事通信フォト)
《佳子さまの寝顔がSNSで拡散》「本当に美しくて、まるで人形みたい」の声も 識者が解説する佳子さま“現地フィーバー”のワケ
NEWSポストセブン