甲子園球場に隣接する素盞嗚(すさのお)神社に飾られた、夏の甲子園開催を願う絵馬(時事通信フォト)
一応、代替試合は予定されている。この辺だと千葉県は8月2日、茨城県は7月11日からだ。開会式も閉会式もなく、原則無観客で、茨城県の大会は登録人数制限なしで全員が出場可能だ。
「練習試合とか親善試合となにが違うんですかねそれ。なんでうちの子の代だけそんな変な試合をしなくちゃいけないんですか。ああわかってますよ、絶対叩かれるって、でも当事者やその親からすればたまったもんじゃない」
◆下手くそにこそ、集大成として夏の大会が必要
確かに、千葉や茨城はましなほうで、栃木県(7月18日から開催予定)などは当初、トーナメント方式ですらない各チーム1試合だけ(一部2試合)の交流試合であったが、23日にはベスト8までのトーナメント方式に変更と迷走した。いずれにせよいかにもな思い出づくりの代替案だが、現状この時点でも流動的、再検討もあり得ると含みをもたせている。歴史的な疫病を前にして仕方がないと言ってしまえばそれまでだが、選手や父兄といった当事者たちは諦めきれないだろう。
「野球はこれからも続けられるとか言ってる外野もネットとかにいますけど、そんなのは一握りです。プロはもちろん、社会人や大学野球で続けられるのはごくわずかです」
気持ちはわかる。私と山倉さんの高校も強豪校だった。通学の野球部員もいたが、通えない遠方の子は寮に入り、寝食を共にして甲子園を目指す。
「大半の球児は高校で引退です。草野球とかもしないですっぱり辞める子もいます。私もそうでした。だからこそ3年夏の高校野球って球児にとって重要なんです。青春の集大成なんです。下手くそにこそ、野球人生の集大成として夏の大会が必要なんです」
じつは山倉さんもその高校球児の一人だった。しかし強豪校の部員のほとんどは補欠、公式戦に出ることなく3年間を終える。3年間スタンドの応援だけで終える。3年間やり遂げれば幸せなほうで、途中で野球部を辞めて一般生徒になる子もいた。その中にはグレたあげくに中退する者もいた。学年は特進含め成績でクラス分けがされる。スポーツクラスでもない、特進でもない下位クラスの元野球部員、居づらくなるのも理解できる。
「強豪校ってのは残酷です。レギュラーの争奪戦どころか最初から決まってるんです。スカウトで来た連中です。でも納得はしましたよ、スカウト組はセミプロ級でしたからね。ありゃ敵いません。プロ行って成功したのもいるし、プロでなくとも名門大学で神宮の聖地を踏んだのもいます。羨ましいですが実力の世界です。外野がとやかく言うことじゃないです」