【書評】『SS先史遺産研究所アーネンエルベ ナチスのアーリア帝国構想と狂気の学術』/ミヒャエル・H・カーター・著/森貴史、北原博、溝井裕一、横道誠、舩津景子、福永耕人・訳/ヒカルランド/9000円+税
【評者】大塚英志(まんが原作者)
柳田國男の戦時下の日記を読んでいくと、いわゆる偽史に関わった人物がしばしば登場する。それより前、大正後期、柳田のジュネーブ国際連盟滞在時の日記に頻繁に登場する藤沢親雄は、戦時下「失われたムー大陸」翻訳に関わった。実は、柳田民俗学はしばしば今ではオカルトや偽史に分類される領域の接近を許してきた形跡がある。
戦時下、柳田の周辺にオカルトの人々が接近を試みたのは、そのような手本がナチスドイツにあったからで、それが伝奇小説やオカルト雑誌の類ではあまりに有名なアーネンエルベである。ハインリヒ・ヒムラーの下で先史学や民俗(族)学と科学と人種主義、オカルティズムと混然としつつ、強制収容所での人体実験を担いもした、その実在そのものがフィクションであった方が納得する研究機関である。
ぼくはホラー作家としての関心だったが、それでも戦時下、ぼくの師である千葉徳爾がリアルタイムで感じた柳田民俗学と偽史の「近さ」は気になる。その意味で興味深いのは、アーネンエルベの発足当初、ナチスの農業政策を担ったダレの農民研究のもたらした役割だ。