夜間中学の必要性を説く前川喜平さん(撮影/浅野剛)

 戦後の貧しい時期、夜間中学は生活のために働く子供たちの受け皿となり、全国的に展開された。最盛期の1955年頃には、全国で89校、5200人の夜間中学生がいたという。

「私が夜間中学の教師になった頃、生徒のほとんどは貧しくて昼間の学校に通えない子供たちでした」

 そう振り返るのは、1961年から42年間にわたって夜間中学で教鞭をとった見城慶和さん(82才)。夜間中学を舞台にした山田洋次監督の映画『学校』(1993年)のモデルとなった「伝説の夜学教師」である。

「当時の夜間中学は、働く子供のための救急学校のような感じ。貧しさを乗り越え、生き抜く力をつけさせることが教育の第一目標でした。だから教えていた内容も、働いている職場の名前や住所を書けるように練習するなど生活や仕事に根ざしたものでした」(見城さん)

 高度経済成長期に入ると、経済的な理由で学校に行けない子供が減少し、夜間中学の規模も徐々に縮小していった。

「その頃から、夜間中学は主に学齢期を超えた大人たちの学びの場になりました。在日コリアンなど、差別や貧困のため義務教育を終えられなかった人々が、『夜間中学で勉強したい』と声をあげ、1970年頃から関西地方を中心に夜間中学が新設されました。それに合わせて、教える内容も中学校教育だけでなく、片仮名や平仮名など識字をはじめとした基礎教育全般に広がっていった」(前川さん)

 1965年の日韓基本条約締結や1972年の日中国交正常化で韓国や旧満州から帰国した引揚者が、学び直す場としても夜間中学は機能した。

 1980年代以降は不登校が社会問題となり、さまざまな理由で学校に行けない子供らも夜間中学で学ぶようになった。

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