もちろん、子供をないがしろにしない人が大半だ。だが、シングルマザーは社会からの孤立感、金銭的な逼迫を感じやすく、そのなかで自分を一時的にでも尊重してくれる存在をみつけると、子供を含めた自分たちが置かれている状況を見誤りやすくなる現実が確かにある。夫婦でいるべき、離婚すべきではなかった、というそもそも論もあるかもしれない。子を殺める親が悪い、と最終的に起きた出来事だけで断じることもできる。ただその前に、今危機に晒されている子供たちを守ることを考えたら、予防策にあたる働きかけは必要だ。
実は、千葉県野田市で起きた児童虐待死事件などを受け一年前に可決された改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が2020年4月から施行されている。そこでは、たとえしつけであろうとも「親による体罰禁止」「児童相談所の体制強化」など、子供を守るための内容が明文化された。ところが現状はと言えば、世間があまりに感情的になりすぎ、子供への逆的事件が起こると加害者である母親叩きに終始するばかり。さらにこの法改正には問題点も多く、体罰を禁止されているのは親権者のみで交際相手などについては言及がなく、ネグレクトについてはそれを防止する実効性ある変更は今回もない。個々の事案の担当者と、運まかせのままだ。だが、これら積み残された課題について積極的な議論がなされるような向きはない。
結局、根本的な原因を見誤り、議論らしきものすら傍に置かれ、いつものように、一ヶ月も経てばこの事件は多くの人の脳裏から消えるだろう。
攻撃できる対象だと、見せかけの事実だけで判断し、登場すると我を忘れて皆で叩く。その熱狂こそが真実を歪め、結果として被害者も浮かばれなければ、新たな悲劇の発生も防げない。今、私たちがやっていることがいかに無益で虚しく、そして有害か、見つめ直したい。