「持続化給付金」や「雇用調整助成金」などのように、新型コロナ禍の影響で悪化した企業の経営を一時的に助ける政策は必要だ。しかし、札束で需要喚起をしようという「Go To キャンペーン」の発想は根本的に間違っている。
これから旅行業界が再生するために必要なのは、キャンペーン期間が終わったら元の木阿弥どころか、さらなる悪影響を与える補助金のバラ撒きではなく、本質的な需要喚起策だ。インバウンドの外国人がいなくなった今は、見方を変えれば日本人が「3密」を避けて安心・安全な国内旅行を楽しめる好機であり、とくに超高齢社会の中で個人金融資産の大半を保有しているシニア世代が「ぜひ行きたい」と思う旅を、旅行業界がゼロベースから企画・提案すべきなのだ。
なぜなら、2019年の国内旅行消費額は22兆円(宿泊旅行17.2兆円、日帰り旅行4.8兆円)で、訪日外国人旅行や日本人海外旅行より格段に大きいからである(図参照)。
新型コロナ禍はアメリカや新興国などの状況を見る限り、しばらく終息しそうにない。したがって日本は国内旅行の名所をより充実・拡大していき、それから10年くらいかけて徐々にインバウンドの回復に備えていく、という手順で旅行業界の再生を図るべきである。そういった青写真もなく、ただ単に補助金をバラ撒くだけでは1.7兆円が水の泡となり、「Go To キャンペーン」が終わったら、旅行業界の苦境はいっそう深刻化するに違いない。後に残るのは、荒れた観光地と国の借金だけである。
●おおまえ・けんいち/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。
※週刊ポスト2020年8月14・21日号