トランプ氏の「口撃」は破壊力抜群(CNP/時事通信フォト)
このテーマでも過去の大統領選挙が参考になる。1988年の大統領選挙は、レーガン政権のブッシュ副大統領(父親)とマサチューセッツ州のデュカキス知事との争いであった。8月までは、ギャラップ社の調査でデュカキス氏が18ポイントもリードしており、もう大統領選挙は終わったとまで言われていた。ところが、デユカキス氏が精神疾患の専門医にかかっていたことが報じられると、ブッシュ陣営はこれを取り上げて大いに騒いだ。すると、事実がどうであったかは関係なく、デュカキス氏の支持率は急降下したのである。デュカキス氏は効果的な反論ができず、リードを守りきれなかった。
今後、トランプ氏が「認知症の疑いのある大統領が核のボタンを押したらどうなるのか」などと極端な発言をして、選挙民を恐怖に陥れることは想像に難くない。バイデン氏がそれにうまく反論できるかは未知数だ。世論調査を見ると、もしかすると、すでに「認知症攻撃」がじわじわと効いているのかもしれない。
アメリカ大統領は孤独である。国防長官、統合参謀本部議長、国家安全保障補佐官などの優秀なスタッフがいても、最後に決断を下すのは自分一人である。世界最強の軍隊を指揮する最高司令官とはそういうものだ。優秀なスタッフたちが会議室を去った後で、大統領は一人残され、熟慮と決断を迫られる。その重圧は、イラク戦争や「テロとの戦争」に踏み切ったブッシュ大統領(息子)が後に述懐している。その時、「バイデン大統領」が正しい決断を下せるか。それを判断するのはアメリカ国民である。