ASEAN頼みの危うさ
ここで無駄をやっては企業として即死してもおかしくない。そんな三菱自動車が選んだのは、グローバル戦略を諦め、ASEAN(東南アジア)市場に経営資源を集中させるという道だった。今後、新商品の投入はASEANが主体で、その中で先進国でも売れそうなものがあれば水平展開するのだという。
2019年度の経営スコアを市場別に見ると、まともに利益が出ているのはASEANだけで、日本、アメリカ、ヨーロッパ、中国、パシフィック(オーストラリア、ニュージーランド)など、他の主要マーケットはすべて赤字。ASEANにすがりつきたくなるのは無理からぬところなのだ。
だが、クルマという商品がどうなるかという観点からは、ASEANへの集中は良い選択とは言えない。モノを買うパワーの重要指標である一人あたりのGDP(国内総生産)の額を見ると、ASEAN諸国は世界の中でも有数の低さ。そこで必要とされるクルマの種類や仕様、価格帯は先進国と大きく異なる。
過去、日本メーカーがASEAN製のクルマやアジア向けに開発したクルマを売った事例は三菱自動車「ミラージュ」、日産「マーチ」、ホンダ「グレイス」などいくつもあるが、販売面では大敗北に終わったケースが圧倒多数。
例外は今年発売されたばかりの日産「キックス」やトヨタのピックアップトラック「ハイラックス」だが、前者は今流行りのSUVとハイブリッドの組み合わせ、後者は生産国はタイだが商品自体はアメリカ向けと、それぞれ特有の事情があった。ASEANベースの自動車ビジネスとは、かくも難しいものなのだ。
世界戦略の拠点としてはおよそ不向きなASEANをマザー市場にすると決意した三菱自動車。今後、日本での三菱車の販売はどうなるのだろうか。