ブーマー・リムーバーの対象にはベビーブーム世代であるドナルド・トランプ米大統領も含まれる(AFP=時事)
新型コロナウイルスは新しく発見された感染症だ。新種であるゆえに対処が難しい部分があるのは本当だが、それ以上の存在ではないし、もちろん世界的な陰謀を実現させるための道具であるはずがない。落ち着いて考えればわかるはずなのだが、時間をかけて理解することよりも、簡単に説明されることを選んで「コロナは富裕層の陰謀」という結論を選ぶのは、残念すぎる。
また、コロナを危険だと思うのは、偏った情報しか与えられていないからで、真実は別にあると主張する別の陰謀論のもとに、多くの人が集ってもいる。
「とある都知事候補者とその支援者が、マスクなどをつけずに都内で集会を行いました。あまりに馬鹿げていて、メディアが大々的に取り上げるとはありませんでしたが、この集団を熱心に応援している、追いかけている人たちがいるのです」
こう話すのは、大手紙の都政担当記者。7月の都知事選では複数の候補者とその周辺取材を行った。
「コロナが大したことない、という言説はネット上にも山ほどあり、ほとんど根拠がないものです。コロナは『ブーマー・リムーバー』などといって、アメリカやヨーロッパでも若者を中心に、そうした言説がウケていたことがありましたが、だいぶ遅れて日本にもそうした言説に感化される人が出てきた形です」(大手紙都政担当記者)
「ブーマー・リムーバー」とは、直訳すると「ベビーブーマー駆除剤」となり、うまくいかない自身の生活は、数の多いベビーブーマー世代のつくった負の遺産のせいだとする、一部の若者による「コロナ解釈」である。アメリカでベビーブーマーというと第二次世界大戦直後から1960年代半ば生まれまでのことを指し、トランプ大統領もその世代だ。環境を破壊し経済格差を拡大させたと、若い世代から非難されることが多い。年代の区切はアメリカと少しずれるが、学生運動を激しく行い、働き始めるとバブル経済をになった日本の第一次ベビーブーマー、現在の70代前半の世代は同じように批判の的となっている。
アメリカでも日本でも共通して批判されているのは、負の遺産を次世代に払わせようとしていること、対コロナについてもハイリスクなのにやけに自信たっぷりな言動で世の中を振り回すところだ。その面倒なばかりの老人は邪魔な存在であり、新型コロナウイルスは老人だけが死ぬと勝手に解釈しウイルスの蔓延を歓迎さえする言説が「ブーマー・リムーバー」だ。巨大な力によって新しい世界の到来を望むところは、陰謀論と共通している。その考えをベースとした人たちが、日本でも集会を開いたりしているのだ。
「風邪でも人間は死ぬから、コロナも風邪と同じだ、といって市民に大きな不安を与えている。その一方で、主導者は寄付金を集めたり、ユーチューバーのようなことをやって金儲けをしている。手口がカルト団体とそっくりで、情報に疎い人々が、こうした連中にどんどん取り込まれていっている」(大手紙都政担当記者)