ライフ

コロナで陰謀論に出会い染まる人々 家庭崩壊に陥るケースも

新型コロナウイルスについては、マイクロソフト共同創設者で世界的大富豪の一人であるビル・ゲイツ氏に関する根拠のない陰謀論も広まっている(AFP=時事)

新型コロナウイルスについては、マイクロソフト共同創設者で世界的大富豪の一人であるビル・ゲイツ氏に関する根拠のない陰謀論も広まっている(AFP=時事)

 人が思考を停止させるのはどんなときなのか。想像を超えた困難に見舞われたときには、物事への理解を深めようという姿勢よりも、そのときの気持ちが休まる安易な「解答」を選択してしまうものなのかもしれない。ライターの森鷹久氏が、新型コロナウイルスの感染拡大によって、陰謀論にすがってしまう人たちと、振り回される周囲の困惑についてレポートする。

 * * *
 新型コロナウイルスをめぐっては、様々な陰謀論が日本中、世界中をかけめぐっている。「中国による生物兵器」「2015年には新型コロナウイルスに関する特許が取得されていた」「実はコロナはロシアの仕掛けた細菌戦争」など、いくらでも例がみつかる。新型コロナウイルスに晒された今のような不安定な雰囲気が満ちた世の中だと、似たような無理のある主張が増えてくるらしい。

「フェイスブックに『コロナの正体がわかった』などと書き込み始め、最初はどうしたのかと思っていましたが…」

 こう話すのは、都内の会社員・澤田洋一さん(仮名・40代)。イベント運営会社勤務の知人(50代)が、コロナ禍の4月以降、人が変わってしまったようになったという。

「コロナの正体は、外国の富裕層が作り出した人口抑制装置だ、などという書き込みを連日行うようになり、最初は心優しい知人が『そういう考え方もあるよね』などと書きつつ、諫めていました。ところが、彼の書き込みにだんだん攻撃性が出てきたんです。このことに気がつかないのはおかしい、情報弱者だ、などと人をなじるようになりました」(澤田さん)

 後にわかったことではあるがこの知人、コロナ禍で仕事がほぼゼロになり、およそ二ヶ月間に及ぶ自宅待機期間中に、今まではほとんど見ることもなかったネット上の「まとめサイト」にどハマりしたという。関東の国立大学卒、もともと勉強も苦手な方ではないらしいが、自分がこう、と思ったら周りが見えなくなり突っ走る性格。今回も、ただ自分が興味のあること、好きなこと、こうあってほしいという願望に沿ったものばかりを読み漁ったらしい知人。そして偏った情報選択、学習を行ってしまったようであった。

「自宅では、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ、アップルコンピューター創業者のスティーブ・ジョブスなど、海外の富裕層と言われる人々の著書、関連書籍を妻や子供に読むよう強要し、彼らがいかにして市民を殺そうとしているのか、富裕層の仲間に当てたメッセージを読み解けなどと騒いでいたようです。結果、リアルにコロナ離婚寸前で、すでに奧さんと子供は自宅を出ていったとか。ただ、彼の書き込みは今も続いていて、最近では、まとめサイトを作って収益を上げようとすらしています」(澤田さん)

 沢田さんの知人は、起きている事態が自分の理解を超えたことを受け入れられず、現実と考えるにはあまりに滑稽なものに、その解を見出そうとしてしまっている。新型コロナウイルスというものを未知の怪物のようにとらえ、敵は巨大で恐ろしいのだと叫び続けることで、現実逃避に走っているのかもしれない。周囲の人にとってみれば、この知人の叫びはネットを介してしか聞こえてこないものだが、買い物は全てネット通販でほとんど外にも出ない彼は、家の中では四六時中、恐怖の元となっていると信じているものについて叫んでいたはずだ。陰謀論を信じろと言われ続ける家族にとってみれば、巨大な敵は知人そのものであったに違いない。

関連キーワード

関連記事

トピックス

NHK中川安奈アナウンサー(本人のインスタグラムより)
《広島局に突如登場》“けしからんインスタ”の中川安奈アナ、写真投稿に異変 社員からは「どうしたの?」の声
NEWSポストセブン
カラオケ大会を開催した中条きよし・維新参院議員
中条きよし・維新参院議員 芸能活動引退のはずが「カラオケ大会」で“おひねり営業”の現場
NEWSポストセブン
コーチェラの出演を終え、「すごく刺激なりました。最高でした!」とコメントした平野
コーチェラ出演のNumber_i、現地音楽関係者は驚きの称賛で「世界進出は思ったより早く進む」の声 ロスの空港では大勢のファンに神対応も
女性セブン
文房具店「Paper Plant」内で取材を受けてくれたフリーディアさん
《タレント・元こずえ鈴が華麗なる転身》LA在住「ドジャー・スタジアム」近隣でショップ経営「大谷選手の入団後はお客さんがたくさん来るようになりました」
NEWSポストセブン
元通訳の水谷氏には追起訴の可能性も出てきた
【明らかになった水原一平容疑者の手口】大谷翔平の口座を第三者の目が及ばないように工作か 仲介した仕事でのピンハネ疑惑も
女性セブン
襲撃翌日には、大分で参院補選の応援演説に立った(時事通信フォト)
「犯人は黙秘」「動機は不明」の岸田首相襲撃テロから1年 各県警に「専門部署」新設、警備強化で「選挙演説のスキ」は埋められるのか
NEWSポストセブン
歌う中森明菜
《独占告白》中森明菜と“36年絶縁”の実兄が語る「家族断絶」とエール、「いまこそ伝えたいことが山ほどある」
女性セブン
大谷翔平と妻の真美子さん(時事通信フォト、ドジャースのインスタグラムより)
《真美子さんの献身》大谷翔平が進めていた「水原離れ」 描いていた“新生活”と変化したファッションセンス
NEWSポストセブン
羽生結弦の元妻・末延麻裕子がテレビ出演
《離婚後初めて》羽生結弦の元妻・末延麻裕子さんがTV生出演 饒舌なトークを披露も唯一口を閉ざした話題
女性セブン
古手川祐子
《独占》事実上の“引退状態”にある古手川祐子、娘が語る“意外な今”「気力も体力も衰えてしまったみたいで…」
女性セブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
5月31日付でJTマーヴェラスから退部となった吉原知子監督(時事通信フォト)
《女子バレー元日本代表主将が電撃退部の真相》「Vリーグ優勝5回」の功労者が「監督クビ」の背景と今後の去就
NEWSポストセブン