シェア5%、6位にとどまる大衆薬市場
大衆薬市場をめぐるシェア(市場占有率)争いは年々激しくなっている。英市場調査会社ユーロモニターインターナショナルによると、2019年の国内大衆薬の市場規模は8738億円に上る。インバウンド(訪日外国人)需要が押し上げことにより、5年連続で増加した。
そんな中、武田CHCは「アリナミン」、風邪薬「ベンザブロックL」、漢方薬「ルビーナ」、便秘薬「タケダ漢方便秘薬」、関節痛などの緩和薬「アクテージAN錠」などを主力製品にシェア争いを繰り広げてきた。痔治療薬「ボラギノール」もテレビでよくCMが流れている。
だが、発足当初、年商1000億円を目標にしていた武田CHCは、年々、売り上げを落としてきた。2020年3月期の売上高は608億円、営業利益は128億円。事業を開始した初年度の2018年3月期の売り上げ785億円、営業利益212億円と比べると23%の減収、40%の減益だ。利益の落ち込みが特に大きい。
大衆薬市場のシェアは栄養ドリンク「リポビタンD」や風邪薬「パブロン」を持つ大正製薬ホールディングス傘下の大正製薬が12.5%でトップ。以下、第一三共の子会社、第一三共ヘルスケア、ロート製薬、久光製薬、エスエス製薬と続く。武田CHCのシェアは5.0%で第6位にとどまる。
人事を見ても、武田CHCの重要度が下がっていることが分かる。武田CHCを分社化した前後から、「いずれ売却するつもりだ」との観測が関係者の間にはあった。
発足した当初、社長には武田薬品の生え抜きでヘルスケアカンパニープレジデントだった杉本雅史氏が就いた。業界団体の日本OTC医薬品協会長も兼ねた杉本社長は「アジアのリーディングカンパニーになる」と意欲満々だった。ところが、2018年3月、取締役、協会長を任期半ばにして突然辞任した。
「事業開始から1年を区切りとした」というのが表向きの退任の理由だったが、それを信じる人はいなかった。経営の方向性を巡って、親会社のウェバー社長と激突したといわれている。そして、武田を去った杉本氏は、2019年1月、ロート製薬に三顧の礼をもって迎えられ、6月に社長になった。創業120周年のロートで初となる外部出身の経営トップだった。
一方の武田CHCは2018年9月、野上麻理氏が社長に就任した。野上氏は大阪外国語大学(現・大阪大学)を卒業後、P&Gジャパンに入社。マックスファクタージャパンプレジデント、P&Gヴァイスプレジデントを経て2012年、英アストラゼネカに転職し、2014年より執行役員を務めていた。武田CHCはアストラゼネカ日本法人の呼吸器事業部本部長だった野上氏をヘッドハンティングしたのである。
大衆薬を扱う企業の社長に、外資系メガファーマ(巨大製薬会社)の出身者が就くのは極めて異例なことだ。業界では、この人事を「タケダが外資系になった証拠」と皮肉った。
野上新社長は「売却へのロードマップ作りを担う人」と名指しされ、実際、その通りになった。