吉田:これはラジオパーソナリティの技術、というか半分は心構えですけど、何事にもまず驚いたほうがいいんです。例えば「あるアーティストの新曲を先行解禁します」ってことがあるじゃないですか。でも、「先行解禁です、すごいでしょ」ってただ言ってもリスナーは意外と盛り上がらないんです。
それよりは「え?」って驚いたほうがいい。「え? この曲、本当に解禁しちゃっていいんですか」ってリアクションをすると、リスナーも「お? 何それ」ってなるんですよね。若干馬鹿っぽく見えるくらい驚いたほうが、スペシャルな雰囲気がリスナーに伝わるんです。
佐渡島:なるほど。僕も漫画家には「キャラクターには絶対驚かせたほうがいい」って話をするんです。漫画のキャラクターに、感情を出したほうがいいよって。すべての強い感情は必ず驚きのあとにあると。喜びも悲しみも、全部驚きのあとに出てくるものだから、その驚き方にキャラクターらしさが表現される。だから重要なシーンの前には驚いてから感情というのを徹底して演出しましょうっていうんですね。
吉田:それなのに、佐渡島さんご自身があまり驚かないじゃないですか。
佐渡島:確かに(笑)。昔、堀江貴文さんがよく「想定内」って言っていたじゃないですか。僕も頭の中で、事前にいろいろシミュレーションしてしまう人なんですよね。だから目の前で何か起きても、うまく驚けない(笑)。すると、どうするといいんでしょう?
吉田:他人とコミュニケーションをするとき、驚いたほうが相手はしゃべりやすいんですよね。それに、想定していても驚けると思うんです。最新刊『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)にも書きましたが、最強の相づちはまさに「え?」なんですよ。
佐渡島:……僕、今「え?」って言ってみようと思ったけど、できなかった(笑)。
「なるほど」は使わないほうがいい
吉田:佐渡島さん、ついさっき「なるほど」って相づちしましたけど、この「なるほど」を僕はあえて使わないようにしているんです。「なるほど」って「あなたの言ったことを理解しました」ってまとめなんですよ。だから話が終わっちゃうんです。
佐渡島:それで言うと、僕って打ち合わせで漫画家さんに対して「なるほどは禁止ね」って言っているんですよ。「なるほど」って理解しているなら、こうして打ち合わせをする必要がないわけですから。でも「え?」って相づちなら、絶対に会話に続きがありますもんね。なるほど……あ、なるほどって言ってしまった(笑)。
吉田:ただ、「なるほど」もトーン次第で上手く相づちに活用できるんですよ。
佐渡島:え? それはどういう意味ですか。お、今、自然に「え?」って言えましたね(笑)。
吉田:相づちが会話で活きるかどうかは9割がトーンで決まるんです。「え?」って相づちはトーンが“驚き”で統一されているんですよ。だから淡白に「なるほど……」と言うのでなく、オーバーに「なるほどーっ!」って言えばいいんです。
佐渡島:確かに、ほとんどの人が「なるほど」って言うのは、無難に会話を終わらせて次の話題に移りたいってときですもんね。
吉田:人によっては会話を綺麗に終わらせられないって悩みもあるんですよね。だから逆に、会話を終わらせたい場合は「なるほど」で終わらせることができます。もちろん、会話を続けたいなら、「なるほどーっ!」って驚けば、相手は続きを喋ってくれるんです。
佐渡島:僕、今まで「え?」っていう相づちを、自然と出てくるとき以外には使ってなかったかもしれないです。担当している新人さんたちには、「こういうふうに成長してもらおう」と思ってあらかじめプランを描いているので、たとえすごい成長をしてもそれは想定内なんですよね。でも、プランどおりにいったときも、まずは驚けばいいんですよね。
吉田:驚きのことで言うと、僕は落語が大好きで。落語って、実は物語の中身が何もないんですね。あるのはサプライズだけなんですよ。ある落語研究会では、“お金のうれしそうな拾い方”というのを練習しているんです。普通に淡々と「お、500円玉落ちてる」ってやるだけでは全然落語にはならないんですけど、「ええっ! こんなところに500円が!?」ってやると、途端に観ている人を惹き付けることができるようになるんです。
佐渡島:……なるほど~っ。