「コロナ第2波でいよいよ私たちが試されている」と語る室井滋
千葉:いい大学、いい会社へ入り家庭を持つという人生設計がよくも悪くも昭和型のライフスタイルでしたが、コロナ禍で将来図が思い描けなくなり、「人間とは何なのだろう」と根源的な問いに立ち返るのです。
室井:そこへ戻りますよね。
千葉:戻るのだと思います。まさにいま、時代は大きくうねりをあげて変わっているさなかですから。
室井:これまでの常識が覆されている中、コロナの第2波へ突入したのではないかと考えられていますよね。緊急事態宣言でみんな同じラインで“一緒に頑張ろう”と闘っていた時期よりも、夏以降、しんどいというか、もうどうしていいのかわからないというか。
千葉:人によって、価値観や未来予測もまったく異なりますしね。
室井:だからこそより不安だし、第2波でいよいよ私たちが試されている気がするんです。地方によって感染状況は違いますが、地域に罹患者が増えたら感染者のいる家に貼り紙をしたり、石を投げたりするようなことが起こっていると田舎から聞こえてきたりする。自分だってもし目の前の人がコロナにかかっていると知れば、申し訳ないけれど避けてしまうと思うし、そういう人間の醜い面も出てきているように感じます。
千葉:皮肉じゃないですがウイルスそのものが細胞壁もなく、ゲノムが剝き出しの状態ですよね。それと同じくウイルスがもたらした変化として、人間も世界も時代も剝き出しになってきている印象があります。
室井:何かを隠したり、取り繕って生きてきたわけではないつもりでも、原始的なところへ立ち戻されている感じがすごくします。
千葉:おっしゃるように、いまは人間の本来性をあらためて確認すべき時期に来ていると思います。これまでの生き方や価値観がバラバラに解体されて剝き出しになったこの世の中で、人間関係にしろ、仕事や学問にしろ、現代を生きる新しい価値観を再構築していくべきときに差し掛かっている。
振り返れば地球の歴史も宗教も、疫病や災害、戦争を通じて解体と再構築を繰り返してきました。その中でもAIの登場と新型コロナウイルスは人類にとってのディープインパクトだと思います。マスクやソーシャルディスタンスを指す“ニューノーマル”という言葉は狭義ではなく、これからの私たちに必要なライフスタイルの転換だと考えます。
【プロフィール】
ちば・こうじ/1964年生まれ。曹洞宗宝林寺住職、東北福祉大学学長。『お坊さんバラエティ ぶっちゃけ寺』などに出演。『うつが逃げだす禅の知恵』『眠れなくなるほど面白い 図解日本のしきたり』(監修)など著書多数。
むろい・しげる/富山県生まれ。女優。エッセイ、絵本も数多く出版し、本誌で「ああ越中ヒザ傷だらけ」を隔週連載中。本連載をまとめたエッセイ集『ヤットコスットコ女旅』は現在6刷を数えるベストセラーになっている。
◆撮影/政川慎治
※女性セブン2020年9月24日・10月1日号