今の日本に一番足りない存在
尾原:イノベーションって、本来なら交わらない、遠くにあるもの同士をかけ合わせることで生まれるものなんですよね。
今、一番枯渇している資源って未来なんです。未来を作ろうって起業家はたくさんいるんですよ。その起業家にお金を払うキャピタリストもいっぱいいる。エンジニアもだいぶ増えた。ただ、起業家自身が、自分ができるイノベーションに気づけないというシチュエーションが多いんですよ。そういうときに、この人とこの人を掛け合わせると化学反応が発生するんじゃないか……そういうマッチングをして行く先を指し示す人が、僕のような「カタリスト(媒介者)」や「フューチャリスト」と呼ばれる存在で、今の日本で一番足りてないと思うんです。
吉田:それでいうと僕の本は、そういう「カタリスト」や「フューチャリスト」になりたい人のための本って言ってもいいんですかね(笑)。
尾原:異なるコンテクストの人たちをコミュニケーションによって繋ぎ合わせて、新たなコンテクストを生み出す人たちが「カタリスト」なんですよ。言語が「越境」の壁みたいに思っている人がとても多いと思うんですけど、一番大事なことって、言語以上にお互いの価値観の壁をどうやって乗り越えて仲よくなるかって技術です。だから吉田さんの今回の本って、まさにそのための技術が凝縮されていますよね。
吉田:それは考えてなかったです。その話を聞いていて思ったのが、人ってイノベーションしたいという欲求が本能としてあるんじゃないかなと。僕がこうしてコミュニケーション術にこだわるのも、たくさんの人が「コミュ障」であることを恐れるのも、人間には本能的にイノベーションしたいという欲求があるからなんじゃないかと思って。
尾原:ちゃんとした学説があるわけじゃないんですけど、個人の直感としては人間って、本質の中にイノベーションを起こすことが組み込まれている生物だと思うんですよね。これだけたくさんの生物がいる中で唯一人間だけが、こんなにはびこっているわけでしょう? 自然界にも鳥や魚のように、越境する生物はいるわけですけど、基本的にルートが決まっているんです。人間だけが、どう考えても生存帯域を越えたところまでどんどん進出した。その原動力はいったい何かっていうと、やっぱりイノベーションだと思うんです。人間って生物は道具がなければ、ここまでのさばることができなかったわけです。優位性を担保するためにはどんどんと新しい道具を発明する必要がある。先ほども言ったように、イノベーションって遠くにあるもの同士を「かけ算」することで生まれるものなので、そうするとやっぱり遠くにいる人間とコミュニケーションした方が新しい道具が生まれやすいんですよね。