尾原流「越境コミュニケーション」のコツ
吉田:尾原さんは分断された人と人を繋ぐことでイノベーションを生み出してきましたが、コミュニケーションが必須だと思うんです。それなのに世間話が苦手でコミュ障だという尾原さんのコミュニケーション技術にすごい興味があるんです。
尾原:世間話は苦手ですけど……例えば、未来はこの方向にあるとわかってるんだけど、終着点ははっきり見えてないという状況で、どうやってそこに辿り着こうか、ってことを話すのは大好物です。ほかにも、どこかの未来に向かおうとしてるときに、今お互いが何にわくわくしているか、みたいなことを探索的に話すのも好きです。
吉田:目的がある会話がお好きなんですね。
尾原:だから僕の「越境」ってすごい特殊で、「越境」のための「越境」というものをほとんどやったことがないんです。つまり、あらかじめ目的地を決めてから飛ぶんです。最近、エストニアの人とお話ししたんですよ。僕が求めているオープンイノベーションの極致ってオープンガバメントじゃないですか。だとしたら、オープンガバメントの最先端であるエストニアについて知らないといけない。だからエストニアの人と話そう……そういう順番で決めたんです。
吉田:エストニアの人とどういうふうにお話しされるんですか?
尾原:エストニアの歴史を勉強して、エストニアにおけるインターネットのキーパーソンのインタビューを見て、彼らの思想パターンを“装着”してから行くんです。だからいわゆる、未知の環境に飛び込んでいって、フィールドワーク的に「これは何?」って探りながら……みたいなことはやらないんですよ。ネットにこれだけの情報が溢れている現代では、目的地を決めた段階で、その目的地の言語や歴史、価値観を事前に予習できるわけじゃないですか。
吉田:スマホ1つでいくらでも検索できますもんね。
尾原:特にヨーロッパの人と会うときは、そういう下準備が凄い破壊力を発揮するんですよ。その国の歴史や古典の引用をしながら話すと、相手側が「こいつは俺たちにリスペクトがあるやつだ」って受け止めてくれるので、胸襟をすごく開いてくれるんです。だからこそ逆に、誰彼構わぬ世間話というやつが本当に苦手なんですよ。
吉田:一方で、尾原さんは自身が関係していないカンファレンスにも平気で行くじゃないですか。そのときはどうしているんですか?
尾原:全然分野の違うカンファレンスに行っても、それこそカンファレンス中にいくらでも調べられるじゃないですか。ミーティングやスピーチの途中で、自分のアンテナに引っかかるような発言があったら、その発言者についてその場で一気に調べて、それで話しかけに行きます。さきほどの吉田さんの表現を借りるなら、「武器」を手にしてからしゃべりに行くんですよね。だから僕はパーティでもほとんど、狙い撃ちしかしないんですよね。いわゆるパーティトークはほとんどやらないですね。
吉田:なんでも目的、議題のある会話にしてしまうんですね。
尾原:そうです。なので、人から声をかけられたときは、ものすごい無愛想なんですよ。そこはちょっと、やっぱり変なコミュ障なんで(笑)。
吉田:(笑)
尾原:事前にこちらがリサーチできていない相手とわざわざ話すのって、すごく効率が悪いと思っていて。だから、声かけてくださった方が万が一、実はすごい人でしたってあとからわかった場合は、とても丁寧なメールでフォローして、Zoomでお話しさせてくださいってするんです。