そうした負の遺産が、新型コロナ禍を機に一気に噴き出してくる。まず、かつて指摘したように、今後はホテル・旅館や飲食店などが次々につぶれ、失業の山になる。今後はテレワークや業務のDX(*デジタルトランスフォーメーション。デジタル技術で人々の生活をより良くしたり、既存のビジネス構造を破壊したりして新たな価値を生み出すイノベーション)化で正規社員の仕事も大幅に削減され、失業率が急上昇してくるだろう。
株高も砂上の楼閣だ。大半の日本企業は業績が上がっていないが、にもかかわらず株高になっているということは、要するに株バブルだ。これがはじけたら、日銀とGPIFが保有しているETF(上場投資信託)や株が内部爆発してしまう。本来、株が危なくなったら投資資金は不動産にシフトするが、すでにオフィスビルの空室率は全国的に上昇中で、東京都心の中古マンション価格も下落している。だから、REIT(不動産投資信託)もテレワーク時代に需要が拡大する物流センター以外は暴落している。
つまり、アベノミクスは副作用が強いカンフル剤や鎮痛剤のようなものであり、効き目が切れたら、激しい後遺症に見舞われるのだ。
振り返ってみれば、安倍政権は次々と看板を掛け替えて国民の目先を変えながら「やってる感」を出していただけで、結局、何もできなかった。その安倍前首相に官房長官として歴代最長の7年8か月も仕えたのが菅義偉首相だ。次号では菅政権の課題を考える。
【プロフィール】
大前研一(おおまえ・けんいち)/1943年生まれ。マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社長、本社ディレクター等を経て、1994年退社。現在、ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、ビジネス・ブレークスルー大学学長などを務める。最新刊は小学館新書『新・仕事力 「テレワーク時代」に差がつく働き方』。ほかに『日本の論点』シリーズ等、著書多数。
※週刊ポスト2020年10月9日号