井上:ちなみに森さんは『仁義なき戦い』の5本のなかではどれが一番お好きですか。
森:印象だけですけど、ぼくも『代理戦争』です。具体的にどこって憶えてないけど。
荒井:井上、『仁義なき戦い』は4部作っていうんだよ。笠原さんが書いた4本が『仁義なき戦い』。
井上:ああ、5本目は笠原さんが『頂上作戦』(1974)までで描き切ったということで、高田宏治さんに資料を全部渡して、代わったんですよね。ちなみに白石はどれが好きなの?
白石:ぼくは『広島死闘篇』のアメリカン・ニューシネマ感とかはいまだに見直してもすごい、刺さるものがあります。ああいうのって、やろうと思ってもなかなかできないですね。
荒井:当時、驚いたのは、俺、やくざが自殺するっていうのに衝撃を受けたんだ。渡哲也の石川力夫が自殺する『仁義の墓場』(1975)はこのあとだから。
いつも原爆ドームで終わるということがいい
白石:最後に『仁義なき戦い』の続編をつくるとしたら、主演を誰にしますかっていう質問なんですけど。
井上:白石から言ってみる?
白石:いやいや、散々、いろいろ考えて『孤狼の血』である程度、答えを出したつもりなんで。
井上:松坂桃李ってことか。
白石:でもまだまだちゃんとやってもらえれば人材は豊富だと思いますね。
井上:荒井さんは誰にします?
荒井:石井隆の『GONINサーガ』(2015)をやっている連中ならみんなできんじゃないの。東出昌大とか柄本佑とか。
森:今の質問は『仁義なき戦い』の続編ということであれば、その主演、文太さんの位置というのは狂言回し的なところがあるじゃないですか。彼は動かない。で、まわりがどんどん動いていく。だからそういうキャラクターで誰がいいのかなって思ったけど、少なくても、やっぱりねという人にはしたくない。意表を突きたいですね。だから、たとえばジャニーズ事務所の誰か、とかね。
井上:ぼくは狙って言うと、ウーマンラッシュアワーの村本大輔かな。ああいう政治漫才やる人がやったら面白くないですか。そういうものを内に秘めた人が。ちょっと狙い過ぎだけど。
荒井:あと、やっぱり『仁義なき戦い』は最後、いつも原爆ドームで終わるということがいいよね。深作さん、笠原さんがやろうとしたのは戦争なんだと。深作さんは『仁義なき戦い』の前に『軍旗はためく下に』を撮っていて、これが左からの天皇批判だとしたら、間に『仁義~』があって、その後に笠原さんのホンで『あゝ決戦航空隊』(1974・山下耕作監督)がある。これは右からの天皇制批判なのね。つまり深作さんと笠原さんのかなり真摯な戦争映画の間にはさまっているのが四本の『仁義なき戦い』なんだよね。
(了)
◇構成/高崎俊夫
◆劇場情報 このトークライブが行われたのは「シネプラザ サントムーン」です(於・2020年6月28日)。静岡県駿東郡清水町玉川61-2(http://cineplaza.net/theater/)
【プロフィール】
●荒井晴彦/1947年、東京都出身。季刊誌『映画芸術』編集・発行人。若松プロの助監督を経て、1977年『新宿乱れ街 いくまで待って』で脚本家デビュー。以降、『赫い髪の女』(1979・神代辰巳監督)、『キャバレー日記』(1982・根岸吉太郎監督)など日活ロマンポルノの名作の脚本を一筆。以降、日本を代表する脚本家として活躍。『Wの悲劇』(1984・澤井信一郎監督)、『リボルバー』(1988・藤田敏八監督)、『ヴァイブレータ』(2003・廣木隆一監督)、『大鹿村騒動記』(2011・阪本順治監督)、『共喰い』(2013・青山真治監督)の5作品でキネマ旬報脚本賞受賞。他の脚本担当作品として『嗚呼!おんなたち猥歌』(1981・神代辰巳監督)、『遠雷』(1981・根岸吉太郎監督)、『探偵物語』(1983・根岸吉太郎監督)など多数。また監督・脚本作品として『身も心も』(1997)、『この国の空』(2015)、『火口のふたり』(2019・キネマ旬報ベストテン・日本映画第1位)がある。
●森達也/1956年、広島県出身。立教大学在学中に映画サークルに所属し、テレビ番組制作会社を経てフリーに。地下鉄サリン事件と他のオウム信者たちを描いた『A』(1998)は、ベルリン国際映画祭など多数の海外映画祭でも上映され世界的に大きな話題となった。続く『A2』(2001)で山形国際ドキュメンタリー映画祭特別賞・市民賞を受賞。は東日本大震災後の被災地で撮影された『311』(2011)を綿井健陽、松林要樹、安岡卓治と共同監督。2016年にはゴーストライター騒動をテーマとする映画『Fake』を発表した。最新作は『新聞記者』(2019・キネマ旬報ベストテン・文化映画第1位)。
●白石和彌/1974年、北海道出身。中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督に師事し、『明日なき街角』(1997)、『完全なる飼育 赤い殺意』(2004)、『17歳の風景 少年は何を見たのか』(2005)などの若松作品で助監督を務める。2010年『ロストパラダイス・イン・トーキョー』で長編デビュー。2013年、ノンフィクションベストセラーを原作とした映画『凶悪』が、第38回報知映画賞監督賞、第37回日本アカデミー賞優秀監督賞・脚本賞などを受賞。その他の主な監督作品に、『日本で一番悪い奴ら』(2016)、『牝猫たち』(2017)、『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017)、『サニー/32』(2018)、『孤狼の血』(2018)、『止められるか、俺たちを』(2018)、『麻雀放浪記2020』(2019)、『凪待ち』(2019)など。
●井上 淳一/1965年、愛知県出身。大学入学と同時に若松孝二監督に師事し、若松プロ作品に助監督として参加。1990年、『パンツの穴・ムケそでムケないイチゴたち』で監督デビュー。その後、荒井晴彦氏に師事。脚本家として『くノ一忍法帖・柳生外伝』(1998・小沢仁志監督)『アジアの純真』(2011・片嶋一貴監督)『あいときぼうのまち』(2014・菅乃廣監督)などの脚本を執筆。『戦争と一人の女』(2013)で監督再デビュー。慶州国際映画祭、トリノ国際映画祭ほか、数々の海外映画祭に招待される。ドキュメンタリー『大地を受け継ぐ』(2016)を監督後、白石和彌監督の『止められるか、俺たちを』で脚本を執筆。昨年、監督作『誰がために憲法はある』を発表。