「弾はまだ残っておるがよう」
井上:今、配信の方で質問を受け付けていますが、『仁義なき戦い』でとくに印象に残っているセリフはありますかという質問ですが、いかがでしょうか。
森:やはり最後の菅原文太が「山守さん、弾あ、まだ、残っているがよう」ですね。これはいろんな意味で使えますよね。
井上:実際に、文太さんは亡くなる直前に沖縄で講演をして最後に「安倍さん、弾はまだ残っておるがよう」と政権批判を込めて言ったんですよね。
白石:やはり『広島死闘篇』の大友勝利が名セリフマシーンで、「あれらはオメコの汁で飯喰うとるんで!」っていう下品な最高のセリフを吐きまくっていますよね(笑)。
荒井:それは『県警対組織暴力』でもやっているよね。笠原さん、東映に入る前にラブホテルみたいなところで働いていて、それで食ってたみたいなところがあるからね。
井上:ぼくはやはり「神輿は軽い方がええんよ」ですね。それこそ、安倍政権にも通じるみたいな(笑)
荒井:井上と白石にとって若松さんは神輿じゃなかったの?
白石:別に神輿ではないですよ。
荒井:俺や足立(正生)さんは神輿の感じでやっていたけどね。いかにうまく乗せるかって。
井上:荒井さんの時代と違って、僕たちの頃は若松プロもそんなに仕事もしていなかったし、だから疑似親子関係という意味では、親分、子分みたいなことがあったかもしれないですけど、あまり神輿という感じはなかったなあ。
白石:ぼくもまったく同じ意見です。
荒井:足立さんも俺もそうだけど、若松さんは面白いし魅力的な人なんだけど、やはり批評的に見ざるを得ない。井上はゴマすりテープなんか作っていたぐらいに献身的だったから。
井上:これ、見てる人は『仁義なき戦い』の話なのに、若松って誰なんだと思いませんか(笑)。森さんなんかはちなみに今の話でいうと、実生活で山守みたいな人とああいう関係になったことはあるんですか。
森:ぼくは最初テレビだし、テレビの世界でああいう位置にいた人はほぼいない。だってテレビに失望してやめるつもりでテレビから排除されて映画の世界に来てしまったという感じだから。尊敬できる人はいるけど、師匠はいないです。
井上:これから上映される『広島死闘篇』で笠原さんは、ほんとうは北大路欣也扮する山中正治が刑務所の中でカマを掘られるシーンを書きたかったというんです。カマを掘られて男性性を蹂躙された人は、逆にシャバに出てから鉄砲玉になりやすいと。
荒井:いや、ようするに男だっていうことをどっかで証明したくて、女のところに行くんだけど、勃たないと。で、上の人に殺りに行けと言われたら、よし、男を売れるっていんで、すぐ行くということは言っていますね。
井上:一度笠原さんに聞いたことがあるんですけど、菅原文太の広能昌三のモデルだった美能幸三さんに取材に行ったときに、美能さん、刑務所でカマを掘りなれてるから笠原さんを口説こうとするんですって。ずっと太ももを触られて、でも取材しなくちゃいけないから、手を払いのけられなくて、どうやってこの危機を逃れようと思いながら取材したんだって(笑)。
荒井:俺、笠原さんに言われたことがあるよ、海軍もそうだったって。君なんかねえって。
井上:今、やくざ映画をやるんなら、そういうことができると面白いですね。『広島死闘篇』の時はあまりに山中のモデル(実際は山上)が広島でスター過ぎるから、美能さんにやっちゃいけないと言われたと。
荒井:それとやくざは男の世界っていうけど、女に近いという風に言ってるよね。妬み、嫉み、裏切り、やくざって根は女なんだよって笠原さんは言っていたよね。
井上:じゃあ、この映画は作りとしてほんとうに女だけの世界に広能昌三という男がひとり入っているんですかね、主役ということもあるけど、文太さんだけはそう作ってないですよね。
荒井:それはモデルの美能さんに遠慮しているっていうか美能さんの意見もだいぶあったみたいだから、最初に書いたホンは女との別れのシーンで終えようとしたら、美能さんから、「俺はこんなこと、しとりゃあせんぞ」と言われて、ああいうラストになったと言っていましたね。
井上:ラストの葬式のシーンは、女との話で終われなかったから、ああなったということですか。
荒井:そうそう。
井上:最初、『仁義~』は松方弘樹さんが広能で、坂井鉄也が菅原文太さんだったですね。でもシリーズにしたいから、文太さんが死ぬと困るんで、逆にして今の形になったんですよね。
荒井:あと、美能さんの役というのは動かないんだよね。だから主役たりえないんじゃないかって笠原さんは思っていたんじゃないかな。
井上:だって『仁義なき戦い 完結篇』 なんて、ずっと広能は刑務所に入っていますからね。
荒井:それと若い頃は『広島死闘篇』が一番いいな、好きだなって思っていたけど、自分がシナリオを書くようになってから見たり読んだりすると『代理戦争』っていうのは一番すごいな。電話だけで若い連中が死んでいくという。