〈ロンドンオリンピック後も数々の国内外の大会で優勝。2016年には再びリオデジャネイロオリンピックに出場し、準決勝で敗れたものの、3位決定戦で勝利し、銅メダルを獲得する。同年、以前から交際していた1才年上の料理人の男性と結婚し、2017年7月には第1子となる女児が誕生。2020年の東京オリンピックを目指し復帰するも、「勝ちたい」という意欲が薄れたことと、後進へ道を譲りたいとの思いから2019年2月に引退を表明した〉
2回目のオリンピックでメダルを取っても、相変わらず目の前にはいつものスーパーがあり、私の世界は変わりませんでした(笑い)。
2度のオリンピックを経験してわかったことは、私は何があっても変わらないということです。ただ、空港に着いたときの扱いは全然違いましたけどね。というのも、到着ロビーに出る前に「メダリストのかたはこちらへ。それ以外のかたはお疲れ様でした」って、言われるんです!だから、メダルを取れなかったときは、わき道からこそこそと出て……。
話が脱線しましたが、柔道に関しては、やり尽くしたので後悔はありません。
頑張ったり、時間を費やしたことはいずれ自分に返ってくる。柔道を通じてそれを学びました。そして、それはほかのいろいろなことにもあてはまると思います。
〈2019年12月には、第2子となる男児を出産。現在は2児の母として子育てに奮闘しつつ、後進の指導や『ダシーズ』という体に優しいアイスクリームを作って、世界一を目指している〉
アイスクリームは海外からの輸入がほとんどで、日本から輸出されたものは、まだないんです。だから、ダイエットを気にせず食べられる、おいしいアイスクリームの開発を東京富士大学の学生さんと協力して頑張っています。
コロナ禍で外出を自粛していたときは保育園も休みだったので、子供たちと格闘していました。3才の娘がわがままを言ってくると、どうやって攻めたら今日は落ち着くのかと考えて、あれこれ試したりして。だから、毎日が試合以上の戦いです。
たまに体力の限界が来ると、“HP”という言葉を使って「ママのHP切れたから、本日終了~」と座り込んだりしてね。そうすると「ママ、ごめんなさい~」と娘が泣きながら甘えてきてすごくかわいいんですよ。
〈彼女が編み出した、戦略を立てて実行する「野獣」スタイルは、子育てでも応用がきくようだ〉
取材・文/廉屋友美乃
【プロフィール】
松本薫(まつもと・かおり)/1987年9月11日生まれ、石川県金沢市出身。6才で柔道を始め、中学3年生で全国中学校柔道大会優勝、国内初制覇。高校2年生のインターハイ優勝に続き、高校3年生で2回目の海外遠征となるドイツジュニア国際柔道大会で金メダルを獲得。2009年にワールドツアーに本格的に参戦し、2010年には女子57kg級の世界ランキング1位を獲得。2012年、ロンドンオリンピック女子57kg級で、金メダルを獲得。2015年に現在の『ベネシード』に所属を移し、世界柔道選手権大会(カザフスタン・アスタナ)で優勝。翌2016年、リオデジャネイロオリンピック女子57kg級で、銅メダルを獲得。同年、一般男性と結婚。2児の母に。現在は柔道家として後進の指導にあたるかたわら、アイスクリーム『Darcy’s(ダシーズ)』を手掛ける。
※女性セブン2020年10月29日