北野武監督によるアメリカ舞台のヤクザ映画『BROTHER』への出演をきっかけに活動の場を再び日本に移す。
「その2年ほど前、北野監督と『残侠』という映画でご一緒した時に『加藤君、英語できるようになった?』と聞かれて『まあまあです』と答えたら『じゃあ今度、声をかけるからさ』と。それでリトルトーキョーのボス役をやれることになりました。
ところが今度はアメリカのエージェントが『「BROTHER」という映画のオーディションがある』と言ってくるんです。それが、ボスの子分役で。『そのボスが誰か知ってる?』とエージェントに聞いたら『知らない』と言うものだから『俺だよ』と返しましたよ。
ちょうどそんな頃にジョージ・チャンという中国系俳優に『雅也、なんでお前はアメリカにいるんだ。日本にも素晴らしい監督はいるだろう。アメリカでB級C級をやらなくてもいいじゃないか』と言われたんです。
たしかに、そうなんですよね。日本ではこんなに素晴らしい監督がこんなにいい役でキャスティングしてくれるのに、アメリカでは当時、東洋人は軽くあしらわれる事が多かったのです。
それで日本でもっといいクリエイターたちとやりたいと思うようになっていきました」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
■撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2020年10月30日号