〈最高で月に四十五曲くらい書きました。レストランははやっていないとダメ。材料が落ちる。職業作曲家も同じ。注文が来れば来るほど、いい仕事ができる〉(1997年11月10日・ 朝日新聞夕刊)

 まだ歌い手としての型が確立していない10代の若者たちは、筒美氏と相性が良かった。2009年、アルバム『CHANDELIER』に6曲提供してもらった石井竜也は筒美氏のメロディへの思い入れについて、こう話している。

〈僕の歌い方、例えば♪タラッターララララララララーとかやりたいなとか思っても、『いや、ここは譜面通りに♪タラッタでお願いします』とか。歌ってるつもりなんだけど、自分の癖があるじゃないですか。だからある意味郷ひろみさんとか、歌謡曲の人たちがすごいっていうのがわかったのは、譜面通りにやってんだなっていう〉(2009年5月号・BRIDGE)

 筒美氏はその歌手と初めて仕事をする時、歌声を録音したテープを繰り返し聞き、どうすればヒットに結びつくかを熟考した。そして、特長を引き出すために作った曲に対し、こだわりを見せた。『わたしの彼は左きき』のレコーディング時の様子を、麻丘めぐみはこう振り返っている。

〈歌える自信がなくて、「半音下げて歌ってはダメですか?」とお願いしたんです。そしたら筒美さんは、私の声を「中音から高音に苦しそうに上がるところに哀愁がある」って。それを励みに頑張りました。歌詞と同じく「意地悪なの」と思いましたけど(笑)〉(2018年6月16日号・週刊現代)

 職業作家は、売上枚数が少なければ仕事が減っていく。アイドルは、需要がなければ芸能界から消えていく。同じ運命を持つ両者の心はひとつだった。

“売れたい”──。そのために、筒美氏は決して妥協を許さなかった。相手を納得させるだけの実績もあった。10代の歌手たちは素直であり、吸収力も高かった。そんなお互いのパワーがシンクロし、数々のヒット曲が誕生していった。

 とはいえ、筒美氏の作曲全てが売れたわけではない。ベストテン圏外の曲も無数にある。しかし、失敗にも大きな意味があった。晩年、多くの作家に候補曲を提出させる“コンペ”ありきの最近の音楽業界について語った際、こんな言葉を残している。

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