心技体の成長を感じさせるインタビューだった
だが、ある人物との出会いで早川は大きく変わっていく。
「小宮山(悟)監督に出会ったことで光が見えました。プロ野球での実績はもちろん、選ばれた人しか行けないメジャーの世界にも足を踏み入れた方。監督の教えは自分の中にスッと入ってきましたね。まずはフォームを指導していただきました。それから急に相手を抑えられるようになり、3年春には大学日本代表にも選ばれました。段階をしっかり踏み、結果を出したことで、“自分もプロに行けるかも”と思えるようになったんです」
小宮山監督の指導で結果がついてきて、成功体験が増える。やらされるだけでなく自ら考える癖がつき、すぐ行動に直結させていく。分析力、考察力が増したことにより、自己修正能力も養われた。例えば今年の3月22日、プロアマ交流戦で巨人の二軍と対戦した際、先発した早川は5回で9安打4失点を喫したが、
「この時にフォームに無駄があると気づき、コロナの自粛期間中にフォームの見直しを徹底的にやりました。すると自分の欠点がどんどん見つかった。そこを修正して、秋のリーグ戦初戦の明治戦で初回に155キロが出た」
早川の卒論は投球理論に関するものだという。ストレートと変化球における体の使い方の差と捻転差をイメージし、動作解析して考察するという。自身の今後の投球に活かすためでもある。
早川と話していると、頭の回転の速さに舌を巻く。質問の意図をすぐさま読み取って、どういう答えを相手が欲しがっているのかを見抜き、時にはウィットに富んだ答えで笑わせる。初対面にして、非常にクレバーな印象を強烈に植えつけられた。ただ速い球を投げればいいわけではなく、技術に加えて並外れた観察力、洞察力、胆力を兼ね揃えた者にしか、アマチュアナンバーワン投手の称号は得られないと感じさせられた。
そんな早川は、ドラフトで自分が設定した目標を達成した。1位指名されることではない。「1位での競合」だ。
「1年前に4人の先輩たちがプロ志望届を出して全員指名漏れになった時、(早大野球部の)徳武(定祐)ヘッドコーチから、『お前は来年ドラ1競合でプロへ行け!』って言われたんです。“やるしかない”と覚悟を決めて、それを目標に1年間過ごしました。ドラ1じゃなくてもプロに入れればいいかなと思っていましたが、徳武さんから『競合で行け』って言われたことで、その期待に応えたい思いがありましたね」
見事、約束を果たした早川には、目の前にまだやることが残っている。秋のリーグ戦で優勝することだ。大学最後のリーグ戦を有終の美で飾って堂々とプロ入りする――はやる気持ちを抑え、目の前のやるべきことだけをやる。今は、ただそれだけだ。(文中敬称略)
取材・文/松永多佳倫(ジャーナリスト)