──先ほど名前が出た小池百合子さんについて書かれたノンフィクション『女帝 小池百合子』については、小説家としてどういう感想をお持ちですか?
越智:『女帝』では、生い立ちや学歴など、小池さんがこれまでついてきた「嘘」について、幾度も書かれています。それが真実かどうかはさておき、私の考える悪女についていえば、「嘘」は重要な要素です。まず、嘘で上塗りしなければいけない過去、あるいはコンプレックスがあるということ。私の小説の福永乙子も基本、嘘つきです。でも、彼女は耐えられない過去を封印し、今を生きている。今の自分を支えるためにはその嘘がどうしても必要なんです。
それに嘘はつきようによって、相手に特別感を抱かせます。たとえ嘘をついて、それが嘘だとバレてしまっても、相手に自分だけはこの人を理解できる、見守っていこうと思わせたら、悪女的には勝ちですよね。相手の掌で転がされているようで実は転がしている。そういえば野村沙知代さんも経歴に関していくつか嘘をついていました。でも夫である野村克也監督は、その嘘を「そうまでして俺の気をひきたかったのかと思うといじらしくて」と好意的に受け止めていたと語っていましたよね。
◆伸びしろの大きい“ネオ悪女”とは
──男女とわず、いま、「人たらし」だと感じる人って誰でしょう。
越智:政治的に正しいかどうかや好き嫌いは別にして、トランプはやはり人たらしなのかと思います。先日、トランプの熱狂的支持者が「彼の政治的に過激な発言もコメディとして楽しめる」と言っているのをテレビで見て、あんなに胡散(うさん)くさいのによくぞここまでたらせたなと思いました(笑)。そういえば「胡散」って16世紀にペルシャで使われた香辛料で、食べると軽いトランス状態を引き起こす成分を含んでいるんだとか。胡散くさいのに人たらし、なのではなく、胡散くさいからこそ人をたらせ、熱狂をうむんですね。小泉純一郎さんや小泉進次郎さんも、「人たらし」と言われていますが、私はそうは思わない。シンプルすぎて胡散臭さが足りない。
「世の中は白と黒ばかりではない。敵と味方ばかりでもない。その真ん中にグレーゾーンがあり、これが一番広い。真理は常に中間にありだ」これも田中角栄の言葉ですが、意識するしないにかかわらず、人たらしは、このグレーゾーンの人たちを自分サイドに引き込む力が強いんだと思います。
──時代によって悪女の評価も変わります。歴史を遡って、悪い女だなあと思う人っていますか?