じゃあ、どうやって人の心を盗むのか。つかみは、相手に全集中することじゃないですか。小説を書く前にライターをやっていましたが、少なからぬ人たちをインタビューしてきて思ったのは、集中力のある人には心をつかまれるということ。講演のときは、誰でもいいから聴衆のひとりに向かって話しかけるとうまくいくと聞いたことがありますが、集中しているとき、人は不思議な何かを発している。「人は実感したものを信用する」とは田中角栄の言葉ですが、自分に全集中されると、多くのものを実感できます。
◆田中みな実……嫉妬される女性が憧れの対象になるきっかけ
──悪女というと、男を騙したり、たぶらかしたり、というイメージをもちがちですが、その目的についてはどうお考えですか?
越智:私が書いた『恐ろしくきれいな爆弾』の福永乙子の根底にあるのは男社会への怒りです。だからといって特定の男を騙したり、見返したりしたいわけではなく、「頂点に立ってこの社会をひっくり返したい」という野心に突き動かされて動いているんです。ヒロインが女性政治家ということで、この小説を小池百合子さんと比べて読んでいただくこともあるのですが、話題になった『女帝 小池百合子』(文藝春秋)を読む限り、小池さんにも、乙子と同じ野心があるのかなと思いました。ただ小池さんは乙子より、もっと自覚的に女の武器を使っている印象ですが。
越智:いずれにせよ、野心を現実化し、それも、ある種の開き直りをもってやってのけている女性は魅力的ではあります。同時にそれは嫉妬される対象でもありますが。
──ということは、どこか憧れもある?
越智:女の武器を軽やかに使って目的を達成する──同性から見るとそれは嫉妬の対象にしかなりえなかったけど、裏を返して今は、憧れの対象になっているのかもしれません。かつて「ぶりっ子」として嫌われていた田中みな実さんが、今や「あざとかわいい」とか、プロフェッショナルとして支持されているは、小気味いい「開き直り」を見せているからではないでしょうか。その野心も「モテ」と他愛ないものですし、その範囲でならプチ悪女を楽しんでも罪はない。