大統領選挙を取材し続けているフリージャーナリストのマイケルに電話した。彼も「おそらくマードック氏はトランプ氏を見限った」と語った。
「ダウド氏が指摘している通りだろう。トランプ大統領の最大の武器は、マードック氏率いる右派メディアだった。FOXニュースを筆頭に、ニューヨーク・ポストやウォール・ストリート・ジャーナルといったマードック系メディアが礼賛報道を続けたことで、無理な政策も国民から一定の支持を得てきた。メディアの運営手腕は、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなどのリベラル系より、エンターテインメントにも強いマードック氏のほうが一枚も二枚もうわてだった。しかし、マードック氏はうわてだからこそ、トランプ再選が難しいと見るや、いち早く逃げ道を用意したのだろう。私が聞いているのは、コロナ問題が大統領選挙後にさらに悪化するという予測が大きな要因だったらしい」
確かに大統領選と並行して、アメリカのコロナ感染は再拡大している。ところで、ダウド氏によれば、マードック氏に抗議して袖にされたのは、クシュナー上級顧問だったという。娘婿であり、ハーバード大学卒、MBA(経済修士号)と法学博士号を持つ天才とはいえ、普段ならこういうことはトランプ氏が自分でやりそうな気もする。筆者の疑問に、マイケルはさらに不穏な情報を明かした。
「マードック氏がトランプ大統領はもうダメだと考えたもう一つの理由は、大統領が正常な判断をできなくなっていると見たからだと思う。コロナ感染して以来、強いステロイド剤を使い続けたことなどで、精神の高揚や落ち込みなど、深刻な副作用が出ているという噂が絶えない。クシュナー氏はマードック氏だけでなく、裏であちこちに電話したり指示を出したりしているようだが、それはトランプ氏がまともに陣頭指揮を執れなくなっているからだと聞いている」
そうだとすれば、クシュナー氏の妻でトランプ氏の娘であるイヴァンカ氏や、ファーストレディのメラニア夫人が「もう負けを認めましょう」と語っているという情報も合点がいく。マードック帝国による「トランプ切り」には、コロナの再燃と大統領の「異常事態」という恐ろしい背景があったということなのか。