妻夫木聡は実直んあ獣医を演じる
とはいえ、演じる役と本人の性格とは別もの。最近作でいえば『わたし、定時で帰ります。』(TBS系)で筋の通ったまっとうなOLを演じ、『知らなくていいコト』(日本テレビ系)では週刊誌記者として核心に迫るクールな女性を演じ切りました。
つまり、過去のドラマでいろいろなキャラクターになっているように、今回の楓も意図した「わかりにくい」不可思議な人物なのでしょう。性格も思考回路も特定できない、特定されないという役を演じるのは、吉高さんにとっても挑戦です。
その楓の存在をきっちりと支えているのが、正義感が強くてウソのつけない伯朗を演じる妻夫木聡さん。ミステリアスな楓との対比がはっきり描き出され、白と黒、裏と表のようにピタリとはまっています。ブレない定点としての妻夫木さんの存在があるからこそ、より一層、楓の散乱したイメージが際立つことになる。“危険なラブサスペンス”を謳うこのドラマ、伏線の回収や犯人捜しの面白さを取り沙汰するだけでなく、そんな役者たちを見る愉しみがあります。
そしてもう一つ、脚本の中に「家族を信じること」が主題として仕込まれています。「信じること」によって人間に新たな可能性や局面が開かれ、それが救いにつながる、という一貫したテーマが強調されます。その一方で皮肉なことに、伯朗が楓という存在を信じれば信じるほど、欺かれているのかもしれないという不審も膨らんでいく。この両天秤がこのドラマの文学的醍醐味。いよいよ後半に突入、どれほど視聴者を心地よく翻弄しどのような形で着地してくれるのか。注視したいと思います。